日本学士院

第34回公開講演会講演要旨

1) グローバル化と日本社会   中根千枝   

 今日、グローバル、ボーダーレス、インターナショナルなどという言葉がさかんに使われており、とくに私たち日本社会にとって大きな変革期を迎えていることは言うまでもありません。あらゆる分野でコンピュータ化が進んでおり、日常生活においても携帯電話、インターネットのめざましい普及など、社会全体のリズムが大きく変わってきているようにみえます。同時に構造改革の必要性が叫ばれ、本年初頭の行政改革をはじめ、経済、金融分野において驚くべき変革が好むと好まざるを問わず、おしよせています。
こうした大きなグローバルの波は実際私たちの生活のあり方、人間関係、社会全体にどれほどの変化をもたらし、また既存の制度、価値観は、それに対してどのように対応していくものでしょうか。この問題について、他の社会との比較を視野に入れながら社会(文化)の持続性について考察してみたいと思います。

2) 未来医学と生命倫理
—バイオテクノロジーのヒト卵操作への拡がり—   岡田善雄

 1997年にクローン羊の出産が英国から報道されて以来、クローン動物、クローン人間とか、ヒト胚性幹(ES)細胞と再生医学、と言った話が新聞やTVでしばしば報道されるようになりました。この問題に関心を持たれる方々もだんだん多くなってきているようですが、その中には、この一連のテクノロジーに未来医学の夢を馳せる人達と、その逆に、これらの動きを苦々しく感じておられる方々もあるのではないかと思います。
動物や人間を構成する細胞(体細胞と呼びます)を培養し、生きたままの状態を大切にしながら操作する技術が花開いたのは戦後のことで、この技術開発はバイオサイエンス、生命科学の発展に大きく寄与してきました。この成功の1つが、今までの医療とは全く違う夢のような未来医学への可能性に結び付いてきたのです。ところが、このテクノロジーにはヒトの受精卵、あるいは未受精卵の操作を必要とするステップがあるので、生命倫理上の問題が必ず浮上してくることになります。未来医学と生命倫理の相克の中で、今、世界各国がこの新しい状況に如何に対処するか悩んでいます。