日本学士院

第39回公開講演会講演要旨

共通テーマ 科学技術の進歩と社会

1) 科学技術の進歩と社会   都留重人   

 科学技術と社会との関係には、受動・能動の二面性がある。すなわち、①特に20世紀以降、科学技術はかなり強力な外生要因の刺激を受けるようになった。戦争のためのもの、企業利潤に貢献するものがそれである。②他方、今や生産や富の主柱は、人間自身が行う直接的労働ではなくて、科学が達成した水準や技術の進歩、更には科学が生産過程に応用されることに依存するようになっている。
かつては、真理は万人によって求められることを自ら望むと言われたように、科学の成果というものは、基礎科学に関してはただであるというのが常識であった。だからでもあろう、大達茂雄文部大臣(1955年)は、「科学は生産的でないから予算はとりにくい」と言われたことがある。現在は「文部科学省」と呼ばれている時代であるが、行政当局の認識は変わったであろうか。「ゲノム敗北の教訓」が語られる昨今、あえてこの問題を提起したい。

2) 科学技術と社会   井村裕夫

 科学は自然の仕組みを理解しようとする人間の知的営為であり、生活に利便をもたらす技術とは本来異なるものであった。しかし20世紀の中葉から両者は密接に関連して発展するようになり、「科学技術」という言葉も生まれた。しかも科学の進歩の速度は著しく、科学技術が人間社会に大きい利益をもたらした反面、地球環境問題、クローン人間などの医療技術、遺伝子改変植物などの難しい問題も生み出すこととなった。
個人の営みであった科学も、もはや社会との関係を無視できなくなった。1999年の世界科学会議の宣言で、社会の中の、社会のための科学が重視されたのも、その表れである。しかし知識のための、あるいは産業のための科学が先行しており、社会のための科学とは何なのか、それをどのように実現するのか、まだ道筋は見えていない。その中で、科学に携わるものが何を為すべきかについて、若干の考察を加えたい。