日本学士院

第45回公開講演会講演要旨

1) グローバリゼーションの政治経済学   伊藤 誠

 グローバリゼーションの時代といわれている。実際、この30年ほどの間に、商品取 引も金融も、企業の投資活動も、さらには労働市場もグローバルな連動性と活力を顕 著に高めてきた。情報技術(IT)の高度化と普及が直接間接にその動向を促進してき た。新自由主義が、こうした資本主義市場経済のグローバリゼーションに対応する経 済政策の基調をなしている。それは、自由な競争的市場にゆだねることにより、効率 的で合理的な経済秩序が実現されるという信念にもとづいている。ソ連型社会主義の 崩壊ともあいまって、資本主義の最終的勝利を意味するとみなされることも少なくな い。しかし、新自由主義のもとでのグローバリゼーションは、現実には、経済生活に 不安定と格差を拡大し、働く人びとの多くに将来への不安を増す作用とひきかえに、 企業のフレキシブルな活力を高めている。それにどう対処すべきか、問題の所在と意 義を、歴史もふりかえりつつ考えてみたい。

2) 自然エネルギーの利用 —水車と風車—   伊藤英覺

 自然エネルギーを有効に利用し、人間の体力を遙かに超える仕事をする水車と風車 は、古くから人間の生活に必要な製粉・揚排水・製材・鍛冶などの生産性の向上に役立っていた。19世紀末には水力発電及び風力発電が誕生し、以後水車は著しく大容量化するに至った。近年化石燃料の大量消費がもたらす二酸化炭素の増大が地球温暖化の原因とされるに及んで、水車と風車はふたたび脚光を浴びるに至っている。
ここでは先ず水車について、明治期以来我国の発電用水車の研究開発に携わって来た方々の業績にふれ、現在の水力発電にはどの様な機種が使用されているか、また高速化に伴うキャビテーションの発生などに対処して、性能向上のためにどの様な研究 開発が進められているかを述べる。一方、風車については、1990年代から発電用風車(風力タービン)の建設が急激に増加している。ここでは現在最も普及している水平軸風車周りの流れと、最近における風車の大型化などについて述べる。