日本学士院

第49回公開講演会講演要旨

1) 異文化の理解—古代インドの場合   原 實

 西暦紀元前5世紀インドに興った仏教は、約1000年を経て百済から日本に伝えられたが(538AD)、その頃我々の祖先はインドを遠い異国と思っていた。当時彼等にとって全世界は日本を含めて本朝、震旦、天竺の所謂「三国」であったが、その中でもインドは釈迦誕生の理想国と考えられていた。

 一方西洋にはアレキサンダー(Alexandros)大帝の東方遠征以来知られてはいたが、本格的に東西交渉が始まったのは1498年ヴァスコ ダ ガマ(Vasco da Gama)の所謂インド航路発見以後である。以来宣教師や商人がこの地に来訪するようになったが、1786年英国人ウイリアム ジョーンズ卿(Sir William Jones)がサンスクリット語と西洋古典語との親族関係を発見するに及んで、古代インドは学問研究の対象となった。日本のインド研究も明治以後西洋から導入された。

 東に仏教研究の長い歴史があり、西に言語学的文献学的研究の伝統のある中で、古代インドの研究と理解はどのような経緯を辿ったであろうか。>資料

2) “光”と“電波”をつなぐ—ラマンレーザー   西澤潤一

 電波は、何もない空間でも進める電磁エネルギーのかたまりで、1864年にマックスウェルが理論的に発見した極めて珍しい現象である。これを実験的に証明したのがハインリッヒ・ヘルツで1886~88年であった。実際に通信に利用したのは1895年マルコーニで、ほぼ同時期ポポフも同じような実験を行った。これを使って、指定した人と通信を行う携帯電話などが出来て利用者毎に電波を配分するとすぐ足りなくなる。今後ますます盛んになる通信にもラマンレーザーで出るテラヘルツ波は正に旱天の慈雨である。更に有機化合物に共振するから、病気の検知から薬理学の研究、ヴィールスや菌の分類など極めて広範囲に応用が可能で細菌学についても新しい見識が導入されるものと考えられる。>資料