日本学士院

第54回公開講演会講演要旨

1) 再考・維新経済史―国家・商人・民衆  石井寛治

    列強の外圧に対して、「攘夷か開国か」を激しく争った幕末日本の人々は、「攘夷のための開国」路線を選びながら権力を変革した。商品貿易と技術導入により産業革命を行うさいの資金面での担い手の中心は近世以来の商人であった。小生産者の成長による「民衆的対応」では欧米との巨大な技術格差を埋められず、中国洋務派のような「権力的対応」も民間の力を活かせずに挫折し、外国商人の活動を居留地内に閉じ込めた日本の「商人的対応」のみが、アジア初の産業革命への道を切り開いた。勝海舟や坂本竜馬の言動に象徴される独特な「攘夷のための開国」路線を辿った維新変革を見直し、それを経済面で支えた「商人的対応」の姿を、全国と愛媛の事例に即して考えたい。
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2) 土壌による炭素貯留と地球温暖化   和田光史

    化石燃料の使用による大気CO2増加が地球温暖化をもたらすことが問題になっている。地球上で、光合成によってCO2から有機物をつくる植物を経由して、土壌に入り、有機物として貯留される炭素の総量は、大気と植物に存在している炭素の総量を超え、現在の大気CO2増加による温暖化は、1年に土壌の炭素総量の0.2%相当分が増加すれば解消する。
    しかし、これを達成するにはいろいろ問題がある。土壌の炭素貯留量は土壌の種類によって大きく異なる。また、森林を伐採して農地にすれば、土壌の有機物は数十年で2/3~1/3に減少する。土壌の有機物は微生物による分解によって植物に栄養を与える働きに注目して研究されてきたが、CO2を大気から隔離・貯留して地球温暖化を抑制する働きに注目した新しい研究が展開されている。この講演では世界の土壌の炭素貯留能とその増強についての展望を試みる。
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