日本学士院

第60回公開講演会講演要旨

1) それでも制度は変わる: 経済制度の設計と選択  鈴村興太郎

   我々の経済生活は、様々な制度的仕組みによって幾重にも取り巻かれている。国境を越える経済取引は、GATT/WTO協定を具体化する制度によって規制されているし、国内市場での企業間競争も、公平な競争のルールを規定して、違法な競争行動を排除する競争政策によって規制されている。これらの制度は、自由な経済活動を拘束する固定的な制約であるようにみえるが、実は理性的な設計と民主的な選択によって、「それでも制度は変わる」のである。
この講演は、経済制度を我々の経済活動を外部から制約する≪与件≫ではなく、理性的な設計と民主的な選択の対象と考える経済学を平易に解説する。制度を≪変数≫とする経済学の誕生の背景、制度の設計と選択の経済学が取り扱う様々な問題、このような研究と我々の実際の経済生活との関係などを説明してみたい。

2) 20億年前に誕生した細胞からあなたまで、そして未来へ
—宇宙誕生は望遠鏡で細胞誕生は顕微鏡で解く—   黒岩常祥

    宇宙は望遠鏡等の研究により127億年前に、そして遺伝子(DNA)を持った生命体は40億年前に誕生したと考えられている。この原始生物(細菌)はDNA情報を増やしながら20億年前に我々の細胞の「基」となる真核細胞(生物)へと大きく変換し、更に多細胞生物へと進化して全世界へと拡散していった。従って生物は皆40億年の歴史をもち、その情報はDNAの糸(ゲノム)に書かれている。つまり生命史は、ゲノム情報を解読することで解けるはずである。
2007年、演者らは原始生物“シゾン”で、世界ではじめて真核生物のゲノムの100%解読に成功した。この情報の利用と顕微鏡観察により、20億年前の細胞誕生の謎の解明が進んだ。更にこれらの基礎研究は医療、農業、エネルギー問題の解決等未来を切り拓く鍵となることが期待されている。