日本学士院

第61回公開講演会講演要旨

1) イタリアでの発掘40年  青柳正規

   イタリアの古代ローマ遺跡発掘に従事するようになって今年で40年になる。最初はヴェスヴィオ火山噴火で埋没したポンペイ遺跡の中の「エウローパの船の家」が調査対象だった。400平方メートルほどの小規模な住宅の8割以上がすでに発掘されており、残りを我々が発掘した。5年ほどかけた調査と報告書の出版が終わった1979年からはシチリア島南海岸にある都市アグリジェントの西方約20キロでの古代ローマ時代の別荘遺跡の発掘である。海岸沿いにある別荘からは複雑な構成をもつ浴場施設も出土した。5次にわたる発掘調査と2年間の遺物整理が終わった段階で着手したのが1992年から始めたタルクィニアでの海浜別荘の発掘である。ここでの調査は2005年まで続いたが、2002年からはヴェスヴィオ山北麓のソンマ・ヴェスヴィアーナ市で「アウグストゥスの別荘」と地元では呼ばれている遺跡の調査を開始し、現在までに3000平方メートル以上を発掘した。しかし、全体の三分の一程度にしかならない。以上のような発掘調査を通じてどのようなことが判明したのか、そして考古学や古代史にどのような貢献をしたのかをお話しする予定である。

2) 未来社会をつくる科学技術   野依良治

    科学は人類にとって普遍的な意義をもつ。かけがえのない科学的発見の積み重ねが、人びとに真っ当な自然観、人生観をもたらす。さらに、科学知に基づく新技術の開発は大きな社会的、経済的価値を創り出す。一方で、現代文明はあまりに多大の資源を消費しており、気候変動はじめ地球規模の深刻な問題を惹き起こしている。このままでは文明社会は必ず破綻する。限られた地球の枠組みの中、人類はいかに生き続けるのか。地球は一つ、世界中の70億人の人はすべてつながっている。次世代を背負うすべての人たちが、自然の仕組みを科学的に理解し、知恵を出し合い、手を携えて歩まねばならない。