日本学士院

第63回公開講演会講演要旨

1) ワルラスの樫の木  根岸 隆

  経済学の歴史において、物理学におけるニュートンにも比すべき地位を占めるスイスの学者レオン・ワルラス(1834-1910)の次のような主張について考えてみたい。
  「ひとは自分のおこなったことに明確な認識をもたなくてはならない。もし収穫を急ぐならば、人参やサラダ菜を植えるべきである。しかしもし樫の木を植えるだけの野心があるならば、自分自身にこう言いきかせるべきであろう。わたくしの孫たちはこの緑陰をわたしに負うているのだ、と。」
  これはワルラスが書いた手紙の一部であるが、だれにあてた手紙なのか、必ずしもあきらかでないので調べてみたい。

2) 免疫難病治療への新しい時代の到来 —免疫調節因子(IL-6)の発見から創薬へ— 岸本忠三

  IL-6の遺伝子単離からその受容体の構造解明、シグナル伝達の全容解明へとつながった我々の一連の研究から抗IL-6受容体抗体(Tocilizumab)が生まれ、リウマチの治療にパラダイムシフトを招来したと言われる、現在世界100カ国以上で使われるブロックバスターとなっている。
  小児の全身性特発性関節炎(JIA)にも著効を発揮することが国際的な治験から実証されたし、現在、強皮症、リウマチ様筋痛症、高安病、巨細胞動脈炎、視神経脊髄炎等で治験が行われている。