日本学士院

会員情報

 

氏名

岩崎俊一 (いわさき しゅんいち)

 

所属部・分科

第2部第5分科

選定年月日

平成15年12月12日

専攻学科目

電子通信工学・磁気工学

現職等

東北大学特別栄誉教授
東北工業大学名誉理事長
東北工業大学名誉学長
東北大学名誉教授

受賞等

〔国内〕

〔海外〕

外国アカデミー会員等

中国 中国蘭州大学校 名誉教授 (1988年)
中国 ハルピン工業大学 名誉教授 (1999年)
中国 長春理工大学 名誉教授 (2001年)

主要な学術上の業績

 岩崎俊一氏は、コンピュータ等に用いる磁気ディスクやテープの磁気記録方式の高密度化に関する研究において優れた業績をあげました。高密度記録特性の理論的解明と鉄・コバルト系合金粉末を塗布したメタルテープの発明及び垂直磁気記録方式の発明開発は、世界に先駆けた独創的、画期的な業績であり、日本の電子工学と電子工業において世界をリードする発展に大きく貢献しました。

 すなわち、メタルテープの発明(1958年)は後にVTRの小型化によりビデオカメラ時代を招来し、我が国の磁気記録産業の発展に貢献しました。また垂直磁気記録方式(1977年発明)によるコンピュータディスク装置(HDD)は、2006年から世界の主要企業(国内3社、米2社)で生産が始まり、2011年には全ての工業製品(約6億台)が垂直磁気記録型となり、この大記録容量化によって「クラウド」や「ビッグデータ」を扱う新たな情報技術を生んでおります。この大記録容量化によって「クラウド」や「ビッグデータ」を扱う新たな情報技術が生み出され、今日の情報化社会の基盤が形成されています。

主要な著書・論文

(著 書)

  1. Perpendicular Magnetic Recording. S. Iwasaki and J. Hokkyo, オーム社(平成2年) 垂直磁気記録の研究グループ(日本学術振興会第144委員会)の研究成果をまとめたものでこの分野で最初の英文図書である。内容は総論、記録・再生特性、垂直ヘッドと記録媒体、磁気ディスクと画像記録への応用等を含み、全文211頁である。編集を行うとともに、総論を執筆している。
  2. 垂直記録とビッグデータ,岩崎俊一,日経BPコンサルティング(平成28年12月)自身の垂直磁気記録の研究から科学技術と社会についての提言までを集大成した。科学技術の社会との統合の重要性、及び「技術革新の40年則」が近代日本の転機にも当てはまることも示した。

(学術論文)

  1. Some Considerations on the Design of High Output Magnetic Tape for Short Wavelength Recording. S. Iwasaki and K. Nagai, SCI. REP. RITU., B-(Elect. Comm.), 15, 2, 85 (昭和38年) 高密度磁気記録用の金属微粉末(メタル)磁気テープの設計方法と性能について記述した。現在実用されているメタルテープの最初の論文である。
  2. Dynamical Interpretation of Magnetic Recording Process. S. Iwasaki and T. Suzuki, IEEE Trans. On Magn., MAG-4, 3, 269 (昭和43年) 磁気記録作用を、新しいセルフコンシステント磁化の概念を用いて解析した。これは、以後、磁気記録の基礎となった。
  3. An Analysis for the Magnetization Mode for High Density Magnetic Recording. S. Iwasaki and Y. Nakamura, IEEE Trans. On Magn., MAG-13, 5, 1272 (昭和52年) 高密度の記録を行うため磁化モードとして媒体面に垂直な磁化モードが有望であることを導いた。
  4. Perpendicular Magnetic Recording with a Composite Anisotropy Film. S. Iwasaki, Y. Nakamura and K. Ouchi, IEEE Trans. On Magn., MAG-15, 6, 1456 (昭和54年) Fe-Ni 合金薄膜(水平磁化)を裏打ちしたCo-Cr合金薄膜で、高感度な垂直磁気記録を行えることを実証した。
  5. Perpendicular Magnetic Recording. S. Iwasaki, IEEE Trans. On Magn., MAG-16, 1, 71 (昭和55年) 垂直・長手の両方式間の相補的な性質を明らかにし、垂直磁気記録が高感度のディジタル記録に適することを述べた。
  6. Perpendicular Magnetic Recording -Evolution and Future-. S. Iwasaki, IEEE Trans. On Magn., MAG-20, 5, 657 (昭和59年) 垂直磁気記録方式の研究経過、特徴および将来期待できる特性とそれを実現するための研究課題について述べた。
  7. 垂直磁気記録. 岩崎俊一, 日本物理学会誌 40, 6, 411 (昭和60年) 垂直磁気記録方式における、発明の動機、垂直ヘッドと記録媒体(特にCo-Cr薄膜)の開発およびそれらを用いて実現した垂直磁気ディスク装置等に関する総合報告である。
  8. Strategy of Implementation of Perpendicular Magnetic Recording. S. Iwasaki and N. Honda, Journal of the Magnetics Society of Japan, Vol. 21 Supplement,No. S2, 1 (1997) (平成9年) 1977年以降の垂直磁気記録の研究を整理し、実用化に向けての方策として単磁極ヘッド、2層膜媒体の組み合わせによる記録・再生の他に高感度の磁気抵抗ヘッドによる再生を行うことを提案した。
  9. Discoveries that Guided the Beginning of Perpendicular Magnetics Recording. S. Iwasaki, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol. 235 (2001), pp. 227-234 (平成13年) 垂直磁気記録の発明のもととなった四つの発見を系統的に述べている。すなわち、磁気テープにおける垂直磁化の発生、Co-Cr 合金による垂直磁化膜、2層膜(垂直・水平)による記録・再生感度の向上効果、および垂直、長手両記録の間に成立する相補的関係の確認、等の発見や解明が、垂直磁気記録の発明を生んだことを明らかにしている。
  10. Perpendicular Magnetic Recording Focused on the Origin and Its Significance. S. Iwasaki, IEEE Trans. On Magn., Vol. 38, 8, 1609 (2002) (平成14年) 2002年1月、米国マイアミ市で開催した北米垂直磁気記録会議(NAPMRC)における基調講演である。垂直磁気記録の発明に至る動機とその技術上の優位性を要約して述べ、それが歴史的には磁気テープレコーダーの発明(ドイツ AEG、1935年)に匹敵する革新技術であるという結論を導いている。
  11. 垂直磁気記録とビッグデータ時代,岩崎俊一,電子情報通信学会論文誌 C. Vol.J100-C, No.10, pp. 465-473 (平成29年10月) 同学会の創立100周年記念論文として執筆した。垂直磁気記録の発明から実用化に至る経緯と、大容量ストレージがもたらしたクラウド技術やビッグデータなどが新たな情報化社会を築きつつあることを述べた。更に、科学技術のあり方についても言及した。

リンク


http://www.tohtech.ac.jp/outline/index.html