日本学士院新会員の選定について
日本学士院は、平成22年12月13日開催の第1044回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の12名を新たに日本学士院会員として選定しました。
今回の選定で会員数は138名となります。
(1)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 富永健一(とみなが けんいち) | |
現職等 | 東京大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 社会学 | |
主要な学術上の業績 | 富永健一氏は機能主義社会学者として「社会変動の理論」を構築しました。片々極まりない社会の変化を普遍的に捉えることは困難な作業です。富永氏は社会構造という比較的変化しないものが変化した時こそ社会変動であると定義し、近代化をキーワードに社会変動を引き起こす種々の命題について精緻な論考を進めました。近代化は西洋に端を発するとされますが、同氏は近代化を経済、政治、社会、文化など種々のサブシステムの変化としてとらえます。ここで西洋と非西洋の近代化を考える上で、各サブシステムのタイムラグという時間軸を導入することで普遍的にとらえる視点を創発しました。 【用語解説】
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(2)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 東野治之(とうの はるゆき) | |
現職等 | 奈良大学文学部教授、東京国立博物館客員研究員 |
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専攻学科目 | 日本史 | |
主要な学術上の業績 | 東野治之氏は、日本古代史のうち、7~8世紀(飛鳥・奈良時代)のころを主たる研究分野とし、各種の文献史料を精密に解読することにより、国制史から上代国語の問題にわたって、古代史の真実に迫るすぐれた業績を挙げています。特に1961年(昭和36年)に平城京跡で出土して以来、各地での発見が相ついだ木簡は、新しい文字史料として注目されましたが、東野氏は早い時期にその調査・研究に従事し、木簡研究の基礎となる論文を多く発表しています。木簡の中には、習字に使用した断片もありますが、同氏はその文字を判読するとともに、漢籍に関する該博な知識に基づいて、出典を明らかにし、さらには漢字文化受容の実態を解明しています。このほか、金石文(きんせきぶん)の解読や、正倉院宝物など美術品や工芸品の研究、また遣唐使や鑑真をめぐる日唐関係の解明にも、すぐれた成果を上げています。 【用語解説】
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(3)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 小山貞夫(こやま さだお) | |
現職等 | 東北大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 西洋法制史 | |
主要な学術上の業績 | 小山貞夫氏の学術的功績は、イングランド法制史学を日本に根付かせ、法制史学界の視野を飛躍的に拡大させた点にあります。この分野の最重要課題は、在来の法制が深刻な社会変動に直面したときの対応ぶりを解析することです。3冊の論文集※に結集している小山氏の業績の中でも「マグナ・カルタの歴史的意義」及び「マグナ・カルタ神話の創造」、「陪審制と職権的糾問手続への史的岐路」等の論文は、島国イングランドがこうした変動期にヨーロッパ大陸諸国とは異なり、ローマ法を継受するのではなく、12世紀以後の独自の法を近代まで維持発展させる形でいわゆる英米法を形成してきた歴史を明快に描き出しています。 【用語解説】
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(4)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 平井宜雄(ひらい よしお) | |
現職等 | 東京大学名誉教授、専修大学法科大学院教授 | |
専攻学科目 | 民法 | |
主要な学術上の業績 | 平井宜雄氏は、民事責任論を中心とした債権法の領域において、民法解釈学の水準を高め、革新しました。例えば損害賠償の範囲につき、通説であった相当因果関係説を、事実的因果関係、賠償されるべき損害の範囲の確定、損害の金銭的評価の三つの要素に分析して考察すべきことを論じ、通説を覆滅しました。それ以外の領域でも、法律行為という概念の意義をその生成の歴史に照らして明らかにするなど、多くの点で従来の説に対する根源的批判を行って新しい説を主張し、後の学説の従うところとなりました。 【用語解説】
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(5)第1部第3分科 | ||
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氏名 | 藤田昌久(ふじた まさひさ) | |
現職等 | 甲南大学特別客員教授、 (独)経済産業研究所所長、 京都大学経済研究所特任教授、 京都大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 都市・地域経済学(空間経済学) | |
主要な学術上の業績 | 藤田昌久氏は、伝統的な都市・地域経済学の分野で研究生活をはじめ、そこで優れた業績をあげたのち、1990年代に大きな発展をみせた空間経済学の分野で、米国のクルーグマン博士と並んで極めて重要な研究成果を挙げました。 【用語解説】
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(6)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 益川敏英 (ますかわ としひで) | |
現職等 | 名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長、 京都産業大益川塾教授・塾頭、 京都大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 物理学 | |
主要な学術上の業績 | 益川敏英氏は素粒子の世界におけるCP対称性の破れの原因を解明しました。素粒子の世界における粒子と反粒子は互いに対等と思われていました。これをCP対称性の保存といいます。しかし1964年にK0中間子とその反粒子の間でCP対称性が破れている事が実験的に示されました。このCP対称性の破れの起源は謎に包まれていました。1973年に益川氏と小林誠氏はワインバーグ、サラム理論の枠内では、当時知られていた4種類(2世代)のクオークではCP対称性の破れを説明出来ない事を証明し、さらにもし6種類(3世代)以上のクオークが存在するならば、CP対称性の破れが起こりうる事を示しました。第3世代のクオークの存在の予言は大胆でしたが、1974年にまずチャームクオークが発見され、その後第3世代のボトムクオークとトップクオークも発見され、小林、益川の予言は確証されました。 【用語解説】
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(7)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 黒岩常祥(くろいわ つねよし) | |
現職等 | 立教大学大学院理学研究科特任教授・ 極限生命情報研究センター長、 東京大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 生物科学 | |
主要な学術上の業績 | 黒岩常祥氏は、生命活動に必須な細胞内のエネルギー変換器官であるミトコンドリアと葉緑体の増殖機構を研究し、これらが、多重リング構造から成る独自の装置を使って分裂増殖することを発見しました。さらに、それらの構成成分を明らかにするなど、謎に包まれていた細胞小器官の分裂・増殖の基本機構を解明しました。この研究を推進するため、原始紅藻シゾンを実験材料として開発し、真核生物では初めて100%ゲノム解読に成功しました。また、ミトコンドリアと葉緑体の遺伝様式を特徴づける「母性遺伝」の研究にも取り組み、雄由来のDNAが独自の分解酵素により選択的に分解されることを見出し、なぜ、母方の遺伝子だけが子に伝えられるのか、その分子機構を解明しました。これらは、日本が世界に誇ることのできる独創的な研究成果です。 【用語解説】
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(8)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 小林 誠(こばやし まこと) | |
現職等 | (独)日本学術振興会理事、 高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授、 総合研究大学院大学名誉教授、 名古屋大学特別教授 |
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専攻学科目 | 物理学 | |
主要な学術上の業績 | 小林誠氏は、1973年、益川敏英氏との共著論文において、1964年にK中間子崩壊過程で発見されたCP対称性の破れを理論的に説明することに成功しました。そして、物質の根源粒子であるクオークが3世代にわたり6種類存在しなければならないことを結論づけました。当時はまだ、クオークは陽子、中性子、ラムダ粒子に対応する3種類しか知られていませんでしたから、この6種類という予言がいかに時代に先んじていたかがわかります。実際、その後間もなく第4番目のクォーク(c)が発見され、やがて、第3世代のクオーク(bおよびt)もすべて発見されるに到りました。さらに最近、高エネルギー加速器研究機構およびスタンフォード大学SLACのBファクトリーにおいて、CP対称性の破れがB中間子の系でも発見されるに及んで、小林・益川理論は素粒子物理学において、ゆるぎない地位を確立しました。いわば「素粒子の周期表」を予言し確立した、ということができます。 【用語解説】
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(9)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 長田重一(ながた しげかず) | |
現職等 | 京都大学大学院医学研究科教授 | |
専攻学科目 | 分子生物学 | |
主要な学術上の業績 | 長田重一氏は、分子生物学の研究を展開し、細胞死に関して画期的な成果を上げました。なかでも、動物の発生や新陳代謝の際におこるアポトーシスと呼ばれる細胞死を引き起こすサイトカインとその受容体を同定しました。ついで、この細胞死の過程には、特殊な蛋白質分解酵素やDNA分解酵素が関与していること、死滅した細胞を速やかに体内から除去、分解するシステムが存在することを発見しました。また、アポトーシスシステムが動かなくなると自己免疫疾患など種々の病気を引き起こすことも見いだしています。以上、長田氏の業績は、細胞死の原理、生理作用を解明したものであり、理学、特に生命科学の発展に大きく貢献するものです。 【用語解説】
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(10)第2部第5分科 | ||
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氏名 | 霜田光一(しもだ こういち) | |
現職等 | 東京大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 物理学 | |
主要な学術上の業績 | 霜田光一氏は、東京大学理学部物理学教室において1948年頃からマイクロ波回路、特に空洞共振器について詳しい検討を行い、アンモニア分子等のマイクロ波スペクトルを研究し、原子時計の開発と周波数標準の精度を高める方法を開発しました。これは今日の周波数(時間)と長さの標準を原子や分子のスペクトルに求める流れの発端を作るものでした。さらにコロンビア大学のタウンズ教授の研究室に出張中の1954年には、レーザーの前身であるメーザーの基礎理論と装置の開発に重要な役割を果しました。 【用語解説】
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(11)第2部第5分科 | ||
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氏名 | 内田祥哉(うちだ よしちか) | |
現職等 | 工学院大学特任教授、 金沢美術工芸大学客員教授、 東京大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 建築学 | |
主要な学術上の業績 | 内田祥哉氏は、建築構法計画学の確立と普及、並びに建築生産のオープンシステムを実現するための理論構築と手法を駆使して、20世紀後半における建築生産と建築学に確固とした道筋を付けました。その結果、建築物の使用者、発注者の要求を満たす設計の解を工学的に導くこと、また多様な設計・生産システムの展開を可能としました。さらに、木造建築の再評価を行うことにより、既存の生産組織や伝統技術を現代技術と共存させながら建築生産システムを漸進的に進化させる手法を提示しました。 【用語解説】
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(12)第2部第5分科 | ||
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氏名 | 飯島澄男(いいじま すみお) | |
現職等 | 名城大学大学院理工学研究科教授、 (独)産業技術総合研究所ナノチューブ応用 研究センター長、 日本電気株式会社特別主席研究員、 名古屋大学特別招へい教授 |
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専攻学科目 | 物質科学 | |
主要な学術上の業績 | 飯島澄男氏は、1970年代に、電子顕微鏡を用いた高分解能観察を実現し、世界に先駆けて結晶中の原子の撮影に成功しました。この研究はその後、原子構造を直視するという高分解能電子顕微鏡法の発展の礎となりました。また飯島氏は、結晶中の欠陥構造や超微粒子の構造不安定性についても先駆的な研究成果を挙げ、物理学、結晶化学、鉱物学、材料科学の発展に幅広く貢献しました。1991年には極小の円筒構造とユニークな性質を持つカーボンナノチューブを発見し、学界・産業界に大きな衝撃を与えました。同氏の研究成果は国際的にも高く評価されており、現在でもナノサイエンス・ナノテクノロジー研究における世界的な第一人者として活躍しています。 【用語解説】
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