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日本学士院賞授賞の決定について

日本学士院は、平成22年3月12日開催の第1037回総会において、日本学士院賞9件(表  章氏・山中伸弥氏に対しては恩賜賞を重ねて授与)並びに日本学士院エジンバラ公賞1件を決定しましたので、お知らせいたします。 受賞者は以下のとおりです。

1. 恩賜賞・日本学士院賞
研究題目 「能楽史の研究」
氏名 表章(おもて あきら) 表章
現職 法政大学名誉教授
生年(年齢) 昭和2年(82歳)
専攻学科目

日本中世文学

出身地 北海道稚内市
授賞理由

表 章氏は、法政大学能楽研究所に45年間勤務し、わが国の古典演劇として世界においても注目されている能楽の研究に従事してきました。これまでにも多くの成果を挙げてきましたが、今回の『大和猿学史参究』(岩波書店、2005年3月)及び『観世流史参究』(檜書店、2008年2月)において、能楽史に関する従来の見方を全く改めねばならない新見を提示し、現代に至る能楽の展開を詳細に跡付けました。
 これまで、観阿弥や世阿弥に代表される「大夫」は大和猿楽の座の統率者と考えられていましたが、表氏は、座の本来の統率者は「翁(おきな)」を舞う「長(おさ)」であり、「大夫」の率いる集団とは別の組織だったのが、「大夫」は次第に演劇面で「長」の組織を圧倒して座の中心となっていった過程を、資料の綿密な分析によって明らかにしました。
 さらに、現今の能楽五流において最大の流派である観世流に関して、観阿弥の出身地や観世信光の生年など、多くの伝記的新事実を指摘し、観世座がそれぞれの時代とどう関わってきたか、その実態を具体的に解明しました。

 表氏の以上の研究は、今後の能楽研究の指針となる業績として高く評価されます。

【用語解説】

観阿弥
1333年-1384年。名は清次。初代観世大夫として、子の世阿弥と共に活動し、将軍足利義満の庇護を受けて、能楽の大成に貢献した。「自然居士(じねんこじ)」「通(かよい)小町」「卒都婆(そとば)小町」などの能の作者
世阿弥
1364年、一説に1363年生まれ。没年未詳。1442年没か。観阿弥の子。名は元清。父と共に能楽の大成に貢献したが、晩年は将軍足利義教に疎まれて佐渡へ流された。能楽論「風姿花伝」「花鏡」他、能「高砂」「敦盛」「井筒」「砧」「山姥」などの作者
大和猿楽
興福寺や談山神社(多武峰)など、大和国(奈良県)の寺社を主要な活動の場とした猿楽(能楽の前身というべき芸能)の芸人たち。近江猿楽と共に、猿楽の芸の演劇的成長に大きく貢献した。
大和猿楽では、結崎・外山・円満井・坂戸の四座が代表で、大和猿楽四座と呼ぶ。観世・宝生・金春・金剛の四流の前身
千秋万歳を祈り、神事として舞われる曲。千歳・翁・三番三(さんばそう)(三番叟)が、順次、祝言を述べて舞う。能楽では神聖な曲とされる。
能楽五流
観世・宝生・金春・金剛・喜多の五流。観世から金剛までの四流の前身は大和猿楽四座なので、これらと比べて歴史的に新しい喜多流を併せて、四座一流という言い方もある。
観世信光
1450年-1516年。音阿弥(三世観世大夫元重)の七男。大鼓の役者。「船(ふな)弁慶」「紅葉狩」「遊行(ゆぎょう)柳」などの能の作者
2. 恩賜賞・日本学士院賞
研究題目 「人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立」
氏名 山中伸弥(やまなか しんや) 山中伸弥
現職

京都大学物質-細胞統合システム拠点
iPS細胞研究センター長・再生医科学
研究所教授

生年(年齢) 昭和37年(47歳)
専攻学科目 幹細胞生物学
出身地 大阪府大阪市
授賞理由

山中伸弥氏は、マウス線維芽細胞に4つの遺伝子を導入し、ES細胞(胚性幹細胞)に似た、ほぼ無限に増殖する能力と様々な組織や臓器の細胞を作り出す多能性を有する幹細胞、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)の樹立に世界で初めて成功しました。また、ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作製することにも成功しています。
iPS細胞は、ES細胞のように受精卵を破壊するという倫理的な問題や、免疫学的な拒絶反応を回避することが期待でき、再生医療への応用のみでなく、疾患の新しい治療法や新薬の開発に資するなど、医学・医療に無限の可能性を拓くものと考えられます。
分化した細胞から多能性のある細胞に再プログラムすることが可能であることは、カエルやヒツジの体細胞核を脱核した未受精卵に移植することで証明されていましたが、そこには極めて複雑なプロセスがあると考えられていました。同氏らはわずか3ないし4つの遺伝子を導入することで成功し、全世界を驚かせる画期的な業績をあげ、幹細胞研究に新しいページを開きました。

【用語解説】

線維芽細胞

皮膚などを構成する細胞の1種

ES細胞(embryonic stem cell: 胚性幹細胞)
動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる未分化の細胞株のこと
多能性
生体を構成するほとんどの細胞に分化できる能力
3. 日本学士院賞
研究題目

『宋代司法制度研究』

氏名 梅原郁(うめはら かおる) 梅原郁
現職

(財)黒川古文化研究所所長、
京都大学名誉教授

生年(年齢) 昭和9年(76歳)
専攻学科目 東洋史学
出身地 京都府京都市
授賞理由

梅原 郁氏は過去50余年にわたり、中国の宋代における官僚制度の研究をライフワークとしてきました。その最新の成果が『宋代司法制度研究』(創文社、2006年12月)です。
唐朝半ばの「安史の乱」から約200年つづいた社会の動乱の中で、律令および三省六部の制が有名無実となった後、宋朝は唐律令の骨組みに沿いながら、その内容を新しい社会の現実に対応するように再編し、これが元朝・明朝・清朝へと受け継がれました。変革と再建の時代であるだけに、制度の復元は至難の作業でありました。本研究は厖大な史料を駆使しながら、まず官僚機構とその運営を詳細に復元し、その実績に立って中央から地方におよぶ司法機構とその運営を明らかにしました。
これは前人未踏の業績であり、いったん形骸と化した唐の律令と三省六部の制が、いかにして内容を一新して再組織され、明・清へと受け継がれていくかを緻密に解明した画期的な制度研究の労作です。

【用語解説】

唐、宋、元、明、清

中国の歴代王朝
(唐)618-907年
(宋)960-1279年
(元)1271-1368年
(明)1368-1644年
(清)1616-1912年

安史の乱
唐の節度使・安禄山とその部下の史思明が起こした反乱(755~763年)
三省六部
隋唐王朝で行われた政治制度。三省-中書省・門下省・尚書省。六部-吏部、戸部、礼部、兵部、刑部、工部
4. 日本学士院賞
研究題目 『比較経済発展論-歴史的アプローチ-』
氏名 斎藤修(さいとう おさむ) 斎藤修
現職

ケンブリッジ大学リーヴァヒューム客員教授
一橋大学名誉教授

生年(年齢) 昭和21年(63歳)
専攻学科目 比較経済史・歴史人口学
出身地 東京都大田区
授賞理由

斎藤 修氏は最近における経済史研究の成果、新しい方法の展開を踏まえ、経済史学が経済学から離れつつある状況を、再び経済学と統合させるべく、本書(岩波書店、2008年3月)を刊行しました。
まず、産業革命以前の近世期、産業革命期、工業化以降期を連続的に捉えることによって、これを一連の経済発展の過程と考えています。経済史においても、経済発展論においても、従来この過程の説明にあったのは、マルサスの命題、すなわち収穫逓減の法則をいかに克服するか、という課題でした。しかし、斎藤氏は上記の近世から近代にかけての連続的な経済発展に注目し、アダム・スミスの分業と協業による生産性増大の説明に起源を求め、これを「スミス的成長」と名付けるとともに、これこそ、その説明を可能にするもの、としています。
次に、世界各地の経済発展の途は多様であり、決して先進工業国の歩んだコースを、途上国が辿るわけではないことを事実をもって示しています。つまり経済発展は、先進工業国でも、途上国でも多様であり、決して一つのモデルで説明出来ないことを述べています。
斎藤氏は、市場の成長はどの文化にも見られる普遍的性格を有するのですが、土地や労働といった要素市場の浸透は、社会によって多様であり、市場原理がすべての文化に同様に働くわけではなく、多様性のあることを英国・ ヨーロッパ大陸諸国・中国・日本の事例で検証しています。
 斎藤氏の構築しようとする経済史学は、経済学と隣接し、空間的には途上国を含む世界経済史を描こうとする壮大な規模を持つ試みであり、21世紀の新しい経済史学・経済発展論として高く評価されます。


【用語解説】

収穫逓減の法則

投入する資本または労働が増加すれば当初はそれに準じて収穫も増加するが、次第に減少し、遂にゼロになる場合もあるという法則

要素市場
資本、労働、土地といった経済を構成する要素の取引される市場
市場原理
売り手は最大の利益を得ようとし、買い手は最小の費用で求めようとすることにより、その接点で価格が決定される仕組み
5. 日本学士院賞
研究題目 「ミトコンドリアと葉緑体の分裂・遺伝様式に関する基本機構の発見」
氏名 黒岩常祥(くろいわ つねよし) 黒岩常祥
現職

立教大学大学院理学研究科特任教授・
極限生命情報研究センター長、
東京大学名誉教授

生年(年齢) 昭和16年(68歳)
専攻学科目 生物科学
出身地 東京都新宿区
授賞理由

黒岩常祥氏は、生命活動に必須なエネルギーを作り出す細胞小器官、ミトコンドリアと葉緑体の増殖と遺伝の機構を研究し、これらが、多重リング構造から成る独自の分裂装置を使って増殖することを発見しました。さらに、それらを単離して、構成タンパク質などの分子構築を明らかにし、これまで謎に包まれていた細胞小器官の分裂・増殖の基本機構を解明しました。また、この研究を推進するため、原始紅藻シゾンを実験材料として開発し、真核生物では初めて100%ゲノム解読に成功しました。
さらに、ミトコンドリアと葉緑体の遺伝様式を特徴づける「母性遺伝」の研究に取り組み、雄由来のDNAが独自の消化酵素により選択的に分解されることを明らかにし、細胞小器官の遺伝では、なぜ、母方の遺伝子だけが子に伝えられるのか、 その分子機構を解明しました。
 黒岩氏は、超高分解能蛍光顕微鏡の開発など解析技術にも力を入れ、これらの研究を完成させました。日本が国際的に誇ることのできる独創性の高い研究成果です。


【用語解説】

ミトコンドリア
生物の活動に必須なエネルギー(源)を作り出す細胞小器官で、20億年前に宿主細胞に共生した細菌の子孫と考えられ、独自のDNAを含み、分裂増殖する。
葉緑体
植物は光合成により二酸化炭素を固定して食料となる糖を合成してほとんど全ての生物の生存を支えている。この光合成の細胞内の小器官が葉緑体(色素体)であり、ミトコンドリアと同じように、共生した藍色細菌(シアノバクテリア)の子孫と考えられDNAを含み分裂増殖する。
原始紅藻シゾン
学名Cyanidioschyzon merolae(略称シゾン)と言い、高温強酸性の温泉に生息する。単細胞で細胞小器官をほとんど1個含み、真核生物として初めて100%ゲノムが解析され、現在、細胞生物学、構造生物学のモデル材料として世界中で使用されている。
母性遺伝
受精において、細胞核のゲノム(遺伝子)は、両親から一組ずつ子に伝達される。しかしほとんどの生物のミトコンドリアや葉緑体の遺伝子は、母親の遺伝子のみが子に伝達される。これを母性遺伝という。

葉緑体の分裂装置による分裂像
葉緑体の分裂装置による分裂像
分裂装置の構造と収縮モデル
分裂装置の構造と収縮モデル
分裂の最後の膜の分断モデル
分裂の最後の膜の分断モデル
6. 日本学士院賞
研究題目 「加速的宇宙膨張理論の研究」
氏名 佐藤勝彦(さとう かつひこ) 佐藤勝彦
現職

明星大学理工学部客員教授、
東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授

生年(年齢) 昭和20年(64歳)
専攻学科目 宇宙物理学
出身地 香川県坂出市
授賞理由

佐藤勝彦氏は、国際的に認められている業績をあげた、宇宙論研究の第一人者です。そのなかで特に有名な業績が、インフレーション理論と通称され、その後の観測によって定説となった「加速的宇宙膨張理論」です。
宇宙が膨張していることは、1929年に発表されたハブルの法則で明らかになり、その初めにビッグバンと呼ばれる爆発があったことは、1964年の絶対温度3度の宇宙背景輻射の発見で裏打ちされました。
ビッグバンがどのようにして起きたかについて、人々を納得させる理論を考え出したのが佐藤氏であり、すなわち、同氏は、力の統一理論に基づき、誕生直後の宇宙が加速的に急激な膨張を起こし、その後、宇宙は熱い火の玉となったという理論(加速的宇宙膨張理論)を、世界に先駆けて提唱しました。この理論によって、宇宙は一様な構造を示す一方、その中で超銀河団(多くの銀河の集団)などが生まれたという過程の基礎を与えました。
佐藤氏の理論は、1990年代以降に打ち上げられたNASAの宇宙背景輻射観測衛星の観測データにより、更に確かめられました。


【用語解説】

ハブルの法則
遠方の銀河はわれわれから遠ざかっており、その後退速度は銀河までの距離に比例するという、ハブルが発見した法則。宇宙が一様・等方的に膨張していることを示す。
宇宙背景輻射
宇宙の全方向からほぼ均等にやってくるマイクロ波のこと
力の統一理論
物理学における基本的力には、重力、電磁力、強い力、弱い力の4種類がある。4つの力をまとめた統一理論はまだ完成していないが、1970年代、重力を除く3つの力だけを扱う大統一理論が提唱され、研究は大きく進んだ。

宇宙論のパラダイム
7. 日本学士院賞
研究題目 「遷移金属分子触媒による有機化合物の骨格形成法と修飾法の開拓」(共同研究)
氏名 村井眞二(むらい しんじ) 村井眞二
現職

奈良先端科学技術大学院大学理事・副学長、
大阪大学名誉教授

生年(年齢) 昭和13年(71歳)
専攻学科目 応用化学
出身地 大阪府大阪市
氏名 村橋俊一(むらはし しゅんいち) 村橋俊一
現職

岡山理科大学客員教授、
大阪大学名誉教授

生年(年齢) 昭和12年(72歳)
専攻学科目 有機合成化学・有機金属化学
出身地 大阪府吹田市
授賞理由

村井眞二、村橋俊一両氏は、遷移金属の特性を生かした分子性の触媒を新概念により設計、開発し、従来困難であった多くの化学反応を可能にしました。
村井氏は、ルテニウム触媒の研究を通じて、炭素‐水素結合を有機合成化学に利用する実践的手法に道を拓きました。従来、この結合は無極性のため不活性とされていましたが、近傍の配位性原子を活用することにより困難を克服しました。この触媒反応の効率は極めて高く、適応範囲も広範です。
村橋氏は酵素を範とする環境調和型の酸化触媒ならびに酸・塩基代替両性触媒に関する新しい概念を提起しました。ルテニウム、パラジウム、イリジウムなどを用いて、多彩な新形式の触媒反応を開拓し、多くの含窒素生物活性物質の合成やβ-ラクタム抗生物質中間体の大量生産を可能にしました。さらに同氏の両性触媒は廃棄物となる塩類を副生することなく、多段階合成や自動合成に用いることができます。
両氏の業績は社会的要請の高い省資源、環境低負荷型の化学プロセス開発へ向かうものです。


【用語解説】

遷移金属
周期表で第3族から11族に属する金属で、多くは常磁性を示す。種々の配位子と錯体を形成することができ、触媒として有用なものも多い。ルテニウム、パラジウム、イリジウムはいずれも遷移金属である。
分子性触媒
従来の金属表面や金属酸化物(多量体)ではなく、特定の構造と機能をもつ分子を触媒として用いる。立体構造や反応性を自在に設計できるところに特長がある。
環境調和型触媒
多量に廃棄物を副生する既存化学プロセスに代わり、環境に負荷をかけない化学反応を実現するための触媒。近年、グリーンケミストリーとして化学産業界から求められている。
酸・塩基代替両性触媒
中性分子ながら酸、塩基両様の働きをする触媒
生物活性物質
動植物の生体機能にかかわる有機物質。医・農薬、香料、食品添加物などはその例である。
β-ラクタム抗生物質
ペニシリンのように4員環アミド構造をもつ抗生物質群。細菌の細胞壁形成を阻害する。
8. 日本学士院賞
研究題目 「新規生物機能性分子の創製とその応用に関する研究」(共同研究)
氏名 大類洋(おおるい ひろし) 大類洋
現職

横浜薬科大学薬学部教授、
東北大学名誉教授

生年(年齢) 昭和17年(68歳)
専攻学科目 生物有機化学・分析化学
出身地 東京都港区
氏名 北原武(きたはら たけし) 北原武
現職

帝京平成大学薬学部教授、
北里大学客員教授、
東京大学名誉教授

生年(年齢) 昭和18年(66歳)
専攻学科目 有機合成化学・天然物化学
出身地 長野県駒ヶ根市
授賞理由

大類 洋氏と北原 武氏は、合理的な分子設計による合成化学的手法を駆使して新規な生物機能性分子の創製と応用に関する研究を行い、従来全く不可能であった遠隔位の不斉識別を世界で初めて可能にした精密な超高感度分析法を開発しました。また、生命科学分野で重要な糖類や環状生物活性物質合成に世界中で利用されている汎用性の大きい超高活性反応剤の開発など、基礎科学の発展に大きく貢献しました。
さらに、構造活性相関研究を通じ、家庭防疫用実用的殺虫剤の創製および農業用殺虫剤開発への寄与、不毛なアルカリ土壌の利用を目指した鉄キレーターの合成と機能探索、世界初の新しい概念に基づく糖質を利用した光学活性物質合成など、実用的応用研究において社会的に貢献しました。
すなわち、両氏は、世界に先駆けて革新的な生物機能性物質創製に成功し、有機化学、生体分析化学、植物生理学等広汎な学際領域における顕著な成果を通じて生命科学の発展に貢献しました。

【用語解説】

遠隔位の不斉識別
炭素につく4つの置換基すべてが異なると、両方の手のひらが重ならないように、2つの異性体が生ずる(対掌体)。これが不斉炭素である。このものが4原子程度以上離れた状態で複数ある場合、従来は分離分析することが不可能だった。
生物活性物質・生物機能性物質
抗菌、抗がん、殺虫等の医薬や農薬のように、生物に対し様々な生理作用、機能を持つ物質全般のことで、自然界で生物自体の作り出す物(天然物)が多い。ホルモン、フェロモン、酵素など動植物の生命活動に関わる物も多く含まれる。
構造活性相関研究
上記のような生物活性が、その物質の持つ構造のどの部分によるかを、構造を改変して探す有力な合成化学的手法。活性を示すために必要な構造を見出し、元の物よりもっと強く、時には新しい生物活性を持つ物質を合成することもできる。
鉄キレーター
窒素、酸素、イオウのように結合に関与しない電子対(孤立電子対)を持つ原子は鉄や銅のように空の軌道を持つ金属イオンに電子を与えて結合を作る(配位結合)。孤立電子対を持つ原子を多く含む化合物は、複数の配位結合をつくって金属イオンを取り込む(キレーションという)能力があり、キレーターと呼ばれる。
9. 日本学士院賞
研究題目 「プロテアソーム(蛋白質分解酵素複合体)の構造と機能に関する研究」
氏名 田中啓二(たなか けいじ) 田中啓二
現職

(財)東京都医学研究機構
東京都臨床医学総合研究所所長代行・
先端研究センター長

生年月日 昭和24年(60歳)
専攻学科目 生化学・分子生物学
出身地 徳島県徳島市
授賞理由

生体を構成する主要成分であり、生命現象を支える機能素子である蛋白質は、千差万別の寿命をもってダイナミックに代謝回転しています。この新陳代謝の主役は蛋白質分解が担っており、その主要な役割は細胞内に生じた不要な蛋白質を積極的に除去することです。田中啓二氏は、約30年前、蛋白質の分解シグナルとして働くユビキチンが発見された頃から、そのパートナーである蛋白質分解酵素の研究を独力で開始し、プロテアソームという巨大で複雑なエネルギー依存性の細胞内分解装置を発見、その構造と機能について先駆的な研究を精力的に推進してきました。プロテアソームは細胞の増殖や分化など様々な生命現象に不可欠な役割を果たしていることが判明しています。
さらに田中氏はプロテアソームに多様性のあることを提唱して免疫プロテアソームや胸腺プロテアソームを発見し、これらの酵素が適応免疫(細胞性免疫)の獲得・作動に必須であることを突き止めました。


【用語解説】

ユビキチン
ユビキチンは不要な蛋白質に共有結合し、分解するためのシグナルを形成する。ユビキチンは郵便物における荷札のように行き先を指示する機能を持ち,ユビキチンで修飾された蛋白質を細胞内の分解装置であるプロテアソームへと輸送し、最終的に分解する。なお、ユビキチンに関する研究が、2004年ノーベル化学賞の受賞分野となっている。
免疫プロテアソーム
プロテアソームの触媒サブユニット(β1, β2, β5)がインターフェロンガンマ誘導型サブユニット(β1i, β2i, β5i)に置換した酵素で、内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用し、ウイルスやがん抗原を非自己として排除する細胞性免疫の始動に寄与している。
胸腺プロテアソーム
脊椎動物の胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現しているβ5tサブユニットを組み込んだプロテアソームで、胸腺における細胞障害性(キラー)T細胞のレパートリー形成に必須な役割を果たしている。胸腺においてT細胞の教育に関与する抗原ペプチドを生成し、“正の選択”による T細胞の分化に不可欠な酵素である。
適応免疫
主要組織適合性遺伝子複合体MHCを獲得した有顎脊椎動物に存在する免疫システムで、生体に侵入した病原体を特異的に識別して破壊することができ、獲得免疫とも言われている。プロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素であり、キラーT細胞を介した免疫応答(自己と非自己の識別)に不可欠な役割を果たしている。

(参考資料)
免疫プロテアソームお胸腺プロテアソーム
10. 日本学士院エジンバラ公賞
研究題目 「沖縄を中心とした我が国のサンゴ礁の形成と保全の研究」
氏名 西平守孝(にしひら もりたか) 西平守孝
現職

(財)海洋博覧会記念公園管理財団参与、
東北大学名誉教授、
名桜大学名誉教授

生年(年齢) 昭和14年(70歳)
専攻学科目 動物生態学・サンゴ礁生態学
出身地 沖縄県石垣市
授賞理由

西平守孝氏は、共同研究で日本の造礁サンゴ相を明らかにし、「日本の造礁サンゴ類」を著して、サンゴ礁研究の基礎的資料を提示しました。また、サンゴ礁や陸域生態系での幅広い調査から、群集の成り立ちや多種共存のメカニズムとして、棲み場所に関わる種間関係に着目し、「棲み込み連鎖」という概念を提唱しました。棲み込み連鎖は何処でも、何時でも、必ず起こっているとして、食う―食われる関係や競争などの古典的な種間関係からは見えてこない、多種共存の筋道を示しました。新たな群集観は、自然の保全や復元でも展開が期待できると評価されます。
この群集観を背景に、西平氏は、荒廃したサンゴ群集の復元のため、安価で手軽で安全、しかも良い結果が得られる移植法を確立し、市民が手軽にサンゴ礁の保全に取り組める素地を作りました。海外の大規模な移植事業に参画・助言し、移植サンゴの成長にともなって魚類が種・数とも増加することが示されました。


【用語解説】

造礁サンゴ
サンゴの中で、褐虫藻と共生しているサンゴを造礁サンゴとよぶ。
棲み込み連鎖
生物がその存在や活動によって、棲み場所が提供され、創出され、状況づけられる。そこに新たに生物が棲み込んで、また棲み場所の形成を行う。これが連鎖的に起こること
多種共存
ある空間に、同時に多くの種が共に暮らしている状態

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