日本学士院賞授賞の決定について
日本学士院は、平成23年4月12日開催の第1048回総会において、日本学士院賞9件(佐竹 明氏・宮田秀明氏に対しては恩賜賞を重ねて授与)を決定しましたので、お知らせいたします。 受賞者は以下のとおりです。
1. 恩賜賞・日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「『ヨハネの黙示録』に関する研究」 | |
氏名 | 佐竹 明(さたけ あきら) | |
現職 | 広島大学名誉教授、フェリス女学院大学名誉教授 | |
生年(年齢) | 昭和4年(82歳) | |
専攻学科目 | 新約聖書学 | |
出身地 | 東京都港区 | |
授賞理由 | 佐竹 明氏は、ほぼ半世紀にわたる新約聖書の研究、とりわけ「ヨハネの黙示録」に関する研究を基に、「黙示録」注解書のドイツ語版1巻(Die Offenbarung des Johannes, Vandenhoeck & Ruprecht, Göttingen 2008)、日本語版3巻(『ヨハネの黙示録』新教出版社、上巻、2007年7月;中巻、2009年8月;下巻、2009年12月)を公刊しました。 【用語解説】
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2. 恩賜賞・日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「船舶の非線形造波に関する研究」 | |
氏名 | 宮田秀明(みやた ひであき) | |
現職 | 東京大学大学院工学系研究科教授 | |
生年(年齢) | 昭和23年(63歳) | |
専攻学科目 | 船舶工学、社会システム工学 | |
出身地 | 愛媛県松山市 | |
授賞理由 | 船の造る波は船に対し大きなエネルギー損失を与えます。この船の波は「線形」で理論的に易しい波と考えられていましたが、宮田秀明氏は船舶の大型化、幅広化が進展した1979年に、物体形状や相似則のパラメータによって系統的に変化する「非線形」な波が船体近傍に発生することを発見し、「自由表面衝撃波」と名付けました。更に、この新しい物理現象の特性を考慮した船の設計法と長突出薄形の船首形状を開発し世界に広めるとともに、非線形波を再現する数値モデルの開発によって、計算機シミュレーションによる設計を可能にし、船の波と造波抵抗の新しい時代(非線形の時代)を創始しました。 これらによって、過去30年近くの間に、世界の海で運用されるほとんどの船舶の形状はこの研究成果の恩恵を受け、波によるエネルギー損失が20-50%減り、使用燃料の節減によって経済的効果と環境負荷の低減に貢献しました。 【用語解説】
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3. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 『ウイグル文アビダルマ論書の文献学的研究』 | |
氏名 | 庄垣内 正弘(しょうがいと まさひろ) | |
現職 | 京都産業大学客員教授、京都大学名誉教授 | |
生年(年齢) | 昭和17年(68歳) | |
専攻学科目 | 言語学 | |
出身地 | 広島県呉市 | |
授賞理由 | 庄垣内正弘氏は、過去30年以上に亘ってウイグル文Abhidharmakośabhāşya- ţīkā Tattvārthā(阿毘達磨倶舎論[実義疏])の原典(ロンドン本Or.8212-75)研究に従事し、今回それを批判的に校訂し、詳細な注記を付して日本語に訳出した(第三章)。先立つ第一章は原典の解説、第二章は実義疏以外のウイグル文論書の校訂と解説、また第四章は語彙リストに当てられています。 本研究の特徴は、元朝期に中国語訳から重訳されたウイグル文「実義疏」の諸写本の特徴、相互関係等の問題を文献学的に解明し、更にウイグル語文献一般の正確な読解の為の確実な方法論を編み出した点にあります。また第四章の語彙リストは本書並びに関連文献に見える全語彙を275頁に収め、さながら「ウイグル語仏教術語辞典」の観を呈して言語学者、仏教学者の座右の書となっています。本研究は、本邦ウイグル学の金字塔とも言うべき成果で、世界に誇る斯学の頂点を示しています。 【用語解説】
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4. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 『藤原為家研究』 | |
氏名 | 佐藤恒雄(さとう つねお) | |
現職 | 広島女学院大学文学部教授、香川大学名誉教授 | |
生年(年齢) | 昭和16年(70歳) | |
専攻学科目 | 日本文学 | |
出身地 | 愛媛県四国中央市 | |
授賞理由 | 藤原為家(ためいえ)(1198-1275)は、祖父俊成・父定家の後を継ぎ、歌の家である御子左家の宗匠として、13世紀の宮廷歌壇の中心的存在でありました。本書『藤原為家研究』(笠間書院、2008年9月)は多くの資料を駆使して、まず彼の生涯をたどり、詳細な伝記を記述しています。その上に立って、為家自身の作歌活動、宮廷歌壇の指導者として行った勅撰和歌集の撰進という公的な文化活動、自身の作歌や人々の作品の批評の際に基準となった、その歌学・歌論、父祖の代から継承した古典研究など、各種の文学活動に照明を当て、多くの新見を示して、鎌倉時代の和歌史の研究を著しく深化させました。為家の作歌活動では、彼が4人の歌人と試みた『新撰六帖題和歌』に関する論、勅撰集撰進の問題では『続古今和歌集』成立過程の解明、歌学・歌論では『詠歌一体』の成立とその性格の説明などが、とくに注目されます。いずれの場合でも対象とする作品のテキストや関連資料を博捜し、検討して論を進めており、極めて着実で説得力があります。本研究によって中世和歌に及ぼした為家の影響力の大きさが確認されたと言えます。 【用語解説】
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5. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 『法存立の歴史的基盤』 | |
氏名 | 木庭 顕(こば あきら) | |
現職 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 | |
生年(年齢) | 昭和26年(59歳) | |
専攻学科目 | ローマ法 | |
出身地 | 東京都三鷹市 | |
授賞理由 | 本作品『法存立の歴史的基盤』(東京大学出版会、2009年3月)は、西洋諸国法、従って近代日本法にとって共通の母胎である古代ローマ法の形成過程を、神話・伝承の世界にまで遡って明らかにした、1358ページに及ぶ力作です。「法」の最も根源的使命は、暴力を使った者に得をさせない社会システムをつくり出すことにあります。その意味で、他人の暴力で自分の所持物を奪われた人に、とりあえず、それを取り返してやる仕組みこそが、法システムの出発点になります。ローマ法はこの仕組みを「占有訴権」という形で実現したのであり、これが現在に繋がる西洋諸国法の礎となりました。 【用語解説】
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6. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「純ツイスターD-加群の研究」 | |
氏名 | 望月拓郎(もちづき たくろう) | |
現職 | 京都大学数理解析研究所准教授 | |
生年(年齢) | 昭和47年(38歳) | |
専攻学科目 | 数学 | |
出身地 | 長野県長野市 | |
授賞理由 | 望月拓郎氏は、純ツイスターD-加群の「半単純性」に関して決定的な成果をあげました。一般には、ものが単純なものに分解されたとしてもそのあいだの相互作用によって全体は複雑な構造をもっているのが普通ですが、これに反して、相互作用がなくその全体構造が単純になっているものを「半単純」とよんでいます。一旦半単純であることがわかれば、それからいろいろな強い性質が導き出されるため、半単純性は数学の中で重要な地位を占めています。 このような半単純なもの(層)にいろいろな操作を施せばどんどん複雑になり、「半単純性」は崩れてしまうと考えるのが常識的な考え方です。望月氏は、この常識に反して、「半単純」な層が基本的な操作を施した後でも半単純であり続けることを示しました。望月氏は、この驚くべき結果を、数学の3大分野、代数・幾何・解析にわたる様々な手法を駆使して証明しました。この成果は内外の賞賛を集め、今世紀の数学の礎になるものと期待されています。 【用語解説】
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7. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「マントル最深部の物質とダイナミクスに関する研究」 | |
氏名 | 廣瀬 敬(ひろせ けい) | |
現職 | 東京工業大学大学院理工学研究科教授 |
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生年(年齢) | 昭和43年(43歳) | |
専攻学科目 | 地球惑星科学 | |
出身地 | 千葉県柏市 | |
授賞理由 | 廣瀬 敬氏はダイアモンドとレーザ光を組み合わせた実験手法を改良し、地球のマントル最深部~金属核の圧力・温度の発生に成功しました。そして地球のマントル最深部に相当する圧力・温度下において、マントル下部の主要鉱物ペロフスカイトがより密度の大きな鉱物(ポストペロフスカイト)に相転移することを発見しました。この発見は、1974年のペロフスカイト発見以来のマントル物質に関する重要な発見です。そして、マントル最下部にこのポストペロフスカイトを主とする層が存在し、それがマントル対流に重要な役割を果たしていることを示しました。さらに同氏は共同研究者らとともに、ポストペロフスカイトの地震波伝播特性および電気伝導度を決定し、それによってマントル最下部付近の地震波速度異常の問題を解決するとともに、地球自転速度の変動や自転軸のゆらぎも説明できることを示しました。これらの研究により同氏は近年のマントルの研究を大きく進展させました。 【用語解説】
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8. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「糖鎖生物学、とくにN-結合型糖鎖の病気での重要性についての先駆的業績」 | |
氏名 | 谷口直之(たにぐち なおゆき) | |
現職 | (独)理化学研究所基幹研究所グループディレクター、 大阪大学産業科学研究所招へい教授、 大阪大学名誉教授 |
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生年(年齢) | 昭和17年(68歳) | |
専攻学科目 | 生化学・分子生物学 | |
出身地 | 北海道札幌市 | |
授賞理由 | 谷口直之氏は糖タンパク質の化学構造、代謝、分子生物学、生物学的機能、更には医学への応用など、糖鎖科学の歴史的な流れを一貫してリードし、研究を続けてきました。肝臓がんやがん細胞で、糖タンパク質の糖鎖が正常組織とは異なる構造をもつことを発見したのを契機に、世界に先駆けて、糖鎖を作るのに重要な酵素(糖転移酵素)とそれらの遺伝子(糖鎖遺伝子)の構造とその働きを次々と明らかにしました。そして細胞膜表面にある接着分子や受容体タンパク質に付く糖鎖が、細胞同士のお互いの認識や、細胞の増殖などの情報を伝えること、また糖鎖の種類の違いが個体の成長発育や、がん細胞の転移性を決めたり、また閉塞性肺疾患などの病気の原因になることも明らかにしました。がん患者では血液中の糖タンパク質の糖鎖部分が変化して、診断のマーカーとなることも報告しました。さらに、これらの糖鎖遺伝子の情報は、現在広く使われているがんの抗体治療などへの臨床応用に貢献しました。 【用語解説】
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9. 日本学士院賞 | ||
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研究題目 | 「がん細胞における細胞シグナルとその制御機構に関する研究」 | |
氏名 | 宮園浩平(みやぞの こうへい) | |
現職 | 東京大学大学院医学系研究科教授・ 研究科長・医学部長 |
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生年月日 | 昭和31年(54歳) | |
専攻学科目 | 分子病理学・分子腫瘍学 | |
出身地 | 佐賀県鹿島市 | |
授賞理由 | 宮園浩平氏はがんの抑制と進展の両方に関与するタンパク質であるTGF-βと、骨形成因子などのTGF-βに類似した構造を持つTGF-βファミリーの因子のシグナル伝達機構の研究を行いました。同氏は、TGF-βファミリーの因子が結合する一群の受容体を同定し、さらにこれらの受容体によって活性化される細胞内シグナル伝達分子Smadの役割を研究し、TGF-βやTGF-βファミリーの因子が多彩な作用を発揮する分子機構を明らかにしました。さらに、がんを取り巻く微小環境やがんの元となるがん幹細胞に対するTGF-βの役割を明らかにし、がんの浸潤や転移の分子機構の解明に大きく貢献しました。 がん細胞の増殖や分化、浸潤や転移にはこれを制御する様々な細胞外タンパク質が重要な役割を果たしており、そのシグナルの異常ががんの進展に大きく関わっています。同氏の研究は、今後、種々のがんの診断や治療に応用されて行くことが期待される画期的な研究成果です。 【用語解説】
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