日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について
日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第9回(平成24年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。
氏名 | 池谷 裕二 (いけがや ゆうじ) | |
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生年月 | 昭和45年8月(42歳) | |
現職 | 東京大学大学院薬学系研究科准教授 | |
専門分野 |
神経生理学、神経薬理学 |
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研究課題 | 機能的画像法を用いた脳回路システムの作動原理の解明 | |
選考理由 | 近年の神経科学の発展は目覚ましいが、その殆ど総ては(1)単一神経細胞の機能の追求、又は (2)マクロの臓器としての解析の二つのアプローチのどちらかを取ります。池谷裕二氏が標的とするのはその中間で、個々の神経細胞、シナプス等に依って形成される複雑な回路系を理解するために、多くの神経細胞からの情報を収集し、結果として得られる大規模なデータの集合を新たなインフォマティックスのアプローチによって全体を統合した立場から理解しようとするものです。それに必要な複雑な神経回路系の活動を観測するのに適した方法は存在しなかったのですが、同氏は大脳皮質や海馬に於いて活動するニューロンにカルシウムが流入する様子を光学的に捉えることに依って、一連のニューロンの繋がりが、あるパターンを持って繰り返し活動する様子を捉えることに成功しました。最近の論文では、組織培養した海馬と in vivo の大脳皮質の回路について何百というシナプス棘の自発活動を同時観察し、信号の集中する焦点が存在することを見出しました。このような手法による回路の解析は今後さらに発展し新しい分野を開くと期待されるものであり、独創的で将来性のある研究です。 |
氏名 | 大友 明 (おおとも あきら) | |
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生年月 | 昭和47年12月(40歳) | |
現職 | 東京工業大学大学院理工学研究科教授 | |
専門分野 | 無機固体化学 | |
研究課題 | 高品質酸化物絶縁体界面での金属伝導 |
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選考理由 | 大友 明氏は、高度に制御された製膜手法を用いて人工的に合成された酸化物界面において原子層や電荷変調を制御し、急峻な界面に形成される2次元電子ガスが極めて高い移動度を有し、量子ホール効果を持つことを示しました。すなわち、LaTi3+O3/SrTi4+O3界面においては正味電荷の周期性の乱れを補償するために、La サイトからTiサイトに2次元電子が供給される過程を電子顕微鏡による原子スケールの空間分布観測でとらえ、この電子が極めて高い流動性を持つことを観測しました。ZnO/MgZnO界面においては分極不連続の効果によってZnO側に2次元電子ガスが形成され、磁場のもとで量子化されたホール伝導を示すことを見出しました。ありふれたセラミックス材料から高純度の単結晶を育成し、クリーンな界面を形成することで優れた電子材料が得られることを示した研究は先駆的で意義が高く、酸化物エレクトロニクスの基礎を確立したものと云えます。 |
氏名 | 隠岐 さや香 (おき さやか) | |
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生年月 | 昭和50年6月(37歳) | |
現職 | 広島大学大学院総合科学研究科准教授 |
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専門分野 | 科学技術史 | |
研究課題 | パリ王立科学アカデミーを中心とした18世紀フランスの科学技術史的、 社会史的研究 |
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選考理由 | 科学研究の存在意義は、常に自明であったわけではありません。近代的な科学の諸制度が確立され、今日のような科学者像が定着する以前、科学が世の中で何の役に立つのかというのは、その当事者達にとって、社会一般の認知と国家の支援をかけた重大な問題でした。隠岐さや香氏の著書『科学アカデミーと「有用な科学」』は、主として18世紀フランスのパリ王立科学アカデミーを対象に、その公刊物や、1世紀以上にわたるアカデミーの議事録・書簡類などの第一次資料を丹念に分析し、科学の専門職業化の過程を跡付けた大著です。同氏は一方では社会史の視点に立って、アカデミーが国王に庇護される不安定な小集団から、自発的な研究を行う専門家の組織にまで成長していく経緯をたどり、また他方では思想史の観点から、当時盛んに議論された諸科学の「有用性」の概念について、それがたんなる技術的・経済的な意味合いを越えた公共善への貢献という道徳的な価値を含み、後には応用研究のみならず理論研究にも「有用性」の価値を与えようとする姿勢が見られることを明らかにしました。 |
氏名 | 河原林 健一 (かわらばやし けんいち) | |
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生年月 | 昭和50年5月(37歳) | |
現職 | 情報・システム研究機構国立情報学研究所情報学 プリンシプル研究系教授、同研究所ビッグデータ 数理国際研究センター長 |
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専門分野 | アルゴリズム理論、離散数学 | |
研究課題 | 先端的グラフ理論を利用した離散数学、計算機学にわたる横断的研究 | |
選考理由 | 河原林健一氏は、離散数学および理論計算機の両分野で最先端の研究成果を次々と打ち出している先進気鋭の研究者です。特にグラフ理論を中心とした先端離散数学の研究とそれを応用した高速アルゴリズム設計での業績は世界的に見ても群を抜いており、グラフ理論およびグラフアルゴリズムの両分野においてすでに世界的権威と見なされています。 すなわち、離散数学分野の最深淵かつ最難解とされる「グラフマイナー理論」を発展させたことにより、グラフ彩色問題に代表される数多くの未解決問題を解決に導き、特に離散数学における最難関予想であるHadwiger予想(4色問題の一般化)に画期的成果を挙げました。また、高速アルゴリズム設計の分野でも、グラフマイナー理論の導入により、多数の画期的高速プログラムの開発に成功し、それらの成果は代表的な国際会議に発表されていますが、その数は他に抜きんでています。 |
氏名 | 野尻 秀昭 (のじり ひであき) | |
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生年月 | 昭和43年3月(44歳) | |
現職 | 東京大学生物生産工学研究センター教授 | |
専門分野 | 環境微生物学 | |
研究課題 | 難分解性環境汚染物質の分解細菌が有する分解能の分子基盤の解明 | |
選考理由 | 野尻秀昭氏は、難分解物質を除去するバイオレメディエション技術を確立するため、基礎的な遺伝子の発現研究から応用的な現地適応研究に至る幅広い分野において優れた業績を挙げています。まず、難分解性の石油成分カルバゾールを分解するバクテリアPseudomonas resinoborous CA10株を分離し、カルバゾール分解に関与する酵素(carbazole 1,9a-dioxygenase)遺伝子のクローン化に成功しました。次いで,X線結晶構造解析によって、この酵素は分解過程の第一段階として、NH基の隣の炭素とさらに隣の炭素の二か所にOHを添加することを明らかにしました。さらに、この酵素は酸化反応を触媒する末端酸化酵素とNADH由来の電子を酸化末端に渡す電子伝達系のフェレドキシンとフェレドキシン還元酵素を含む多要素酵素であり、酸化酵素―フェレドキシン―フェレドキシン還元酵素間のスムーズな電子伝達に関わることを示しました。このカルバゾール分解酵素遺伝子は接触伝達性のプラスミドpCAR1のトランスポゾン上に存在し、その発現はプラスミドと細胞核ゲノムの相互作用に影響されることを発見しました。 |
氏名 | 松島 法明 (まつしま のりあき) | |
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生年月 | 昭和48年7月(39歳) |
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現職 | 大阪大学社会経済研究所教授 |
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専門分野 | 産業組織、地域科学 | |
研究課題 | 産業組織の理論的分析 | |
選考理由 | 松島法明氏は産業組織論の理論研究において優れた研究業績を挙げています。松島氏の業績はそのなかで数学的モデルを用いた理論分析が中心です。同氏の研究の独創的な点は、寡占の一当事者として、経済全体の厚生を念頭におく公企業の存在を導入したことです。その結果、私企業の企業数や産業構造に関して、従来の研究にはない新しい知見を得ています。研究手法の一つの特徴は「空間競争モデル」を援用したことで、同氏はこの手法により、企業統合や製品差別化行動に関して数々の興味深い結果を得ています。これらの成果は、経済理論分野の標準からすれば多数の一流国際学術雑誌論文として発表され(あるいは受理ずみであり)、被引用数の上位のものはこの分野としては充分な数に達しており、広く国際学界で認められています。 |