日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について
日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第11回(平成26年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。(年齢・現職は平成27年1月13日現在)
氏名 | 田中 敬二 (たなか けいじ) | |
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生年月 | 昭和45年1月(44歳) |
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現職 | 九州大学大学院工学研究院教授 | |
専門分野 |
高分子材料化学 | |
研究課題 | 高分子界面における局所構造・物性の評価法確立と高分子の機能化に関する研究 | |
授賞理由 | ナノサイエンスやナノテクノロジーの進展に伴い高分子材料も微小化や薄膜化が進んでいます。ナノサイズの材料では全体積に対する界面の面積の割合が著しく大きくなります。材料界面では内部と較べるとエネルギー状態が異なっているために、界面近傍にある分子鎖の凝集状態やダイナミクスは、三次元バルク試料を用いて蓄積されてきた構造や物性の知見とは異なるために、予測することが困難です。 |
氏名 | 鶴見 太郎 (つるみ たろう) | |
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生年月 | 昭和57年4月(32歳) | |
現職 | 埼玉大学研究機構研究企画室(教養学部)准教授 | |
専門分野 | 歴史社会学 | |
研究課題 | パレスチナ紛争の起源としてのシオニズムの世界観に関する歴史社会学的研究 | |
授賞理由 | ヨーロッパにおけるユダヤ人問題は西欧側の見方に基づいて論じられてきました。これに対して鶴見太郎氏は、これまで相対的に無視されてきた帝政時代のロシア・シオニズムに研究の焦点を合わせ、四散したユダヤ人をも視野に入れた、パレスチナに行くことにこだわらなかった自由主義的シオニズムの系譜を丹念に発掘しました。このシオニズムはユダヤ人の本質を特定の宗教的・文化的伝統と結びつける手法を拒否し、例外性を排し、他の民族と同等な取り扱いを権力に対して求めることで、伝統的な差別を克服しようとするユダヤ人の地位向上運動でした。彼らは自らが民族という外殻を持つことを求め、多民族社会の大枠の中で自由に民族的な発展を遂げることを希求しました。その際、社会的な拠点の必要性から、その拠点をロシア内ではなくパレスチナに求めたといいます。このように世界の学界のいわば死角に、現在のパレスチナ問題をも視野に入れて切り込む真摯な問題関心は高く評価されます。 |
氏名 | 中辻 知 (なかつじ さとる) | |
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生年月 | 昭和48年12月(41歳) | |
現職 | 東京大学物性研究所准教授 | |
専門分野 | 固体物理学 | |
研究課題 | 相関電子系における新しい量子物性の開拓 | |
授賞理由 | 中辻 知氏は重い電子系と呼ばれるランタノイド元素を含む新化合物の単結晶を作成し、高度な測定技術と深い専門知識を同時に連携させ、これらの物質の磁性や超伝導に関わる物性物理の新しい分野を開拓し、多くの注目すべき成果を生み出してきました。中辻氏の重要な研究成果は以下のように要約されます。希土類の1つである、イッテルビウムを含む新物質β-YbAlB4を開発し、それが重い電子系に属することを確かめ、さらに超伝導、量子臨界現象を示すことを発見しました。さらにプラセオジム化合物Pr2Ir2O7の単結晶を育成し、これを用いてスピン液体状態や、ゼロ磁場異常ホール効果を初めて解明しました。同様にプラセオジムを含むカゴ状化合物PrTr2Al20(Tr=Ti, V)を作成し、プラセオジム4f電子の非磁性の四極子自由度に基づく近藤効果を初めて確認し、これらの物質が新しく四極子秩序の量子臨界性とともに重い電子超伝導を示すことも発見しました。 |
氏名 | 中村 和弘 (なかむら かずひろ) | |
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生年月 | 昭和50年1月(39歳) | |
現職 | 京都大学学際融合教育研究推進センター准教授 | |
専門分野 | 生理学 | |
研究課題 | 体温中枢が体温調節効果器に指令する中枢神経回路機構の解明 | |
授賞理由 | 人間を含めた恒温動物の体温の調節は多様な温度環境を生きる上で必須の生体機能です。中村和弘氏は生理学と解剖学の解析手法を多面的に駆使し、皮膚で感知した環境温度の情報を脳の体温調節中枢へ伝達する神経経路を発見しました。これは意識の上で温度を感じる仕組みとは異なり、無意識下での体温調節に必要な新規の温度感覚伝達経路でした。更に、温度情報を受けた体温調節中枢が体温維持の生理反応を惹起させる指令を末梢の熱産生器官などへ伝達する神経回路を解明しました。感染や心理ストレスを受けたときには、この神経回路が指令して発熱を惹起させることで生体防御に機能することも証明しました。 |
氏名 | 長谷川 修一(はせがわ しゅういち) | |
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生年月 | 昭和46年10月(43歳) | |
現職 | 立教大学文学部准教授 | |
専門分野 | 西アジア・イスラーム史 | |
研究課題 | 碑文史料・考古資料・旧約本文の史料批判に基づく紀元前1千年紀南レヴァント史の研究 | |
授賞理由 | 長谷川修一氏は、古代セム諸語の碑文研究、考古学発掘調査の成果、そして旧約聖書学を踏まえて、紀元前1千年紀の西アジア地中海沿岸地域の政治・宗教・文化の諸局面に新たな光をあてる数々の業績を挙げています。長谷川氏がテルアビブ大学に提出した博士論文は、紀元前9世紀から8世紀中葉の北イスラエル王国の興亡をシリアのアラム王国並びに新アッシリア帝国の動向と政治力学のなかで立体的に論じて国際的に高い評価を受け、古代イスラエル研究分野で定評ある叢書の一冊として公刊されました。それ以外にも、アッシリアの王碑文の精密な読解を通じてそこに見られる王権イデオロギーと碑文の修辞法の結びつきを明らかにした研究、考古学的発掘調査を踏まえて石臼と搬送用の壺の分布と起源を分析し、それに基づいて東地中海交易の実態とレヴァント地域の文化変容を推定する研究などがあります。同氏の研究の独創性は、本来別々の分野である金石文学、考古学、旧約聖書学の三者を高次元において総合して、研究対象を多角的・実証的に浮き彫りにするところにあります。 |
氏名 | 濱野 吉十 (はまの よしみつ) | |
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生年月 | 昭和47年4月(42歳) | |
現職 | 福井県立大学生物資源学部准教授 |
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専門分野 | 応用微生物学 | |
研究課題 | 微生物が生産するホモポリアミノ酸の生合成メカニズムの解明 | |
授賞理由 | 濱野吉十氏は、放線菌の二次代謝産物であるε-ポリリジンおよびストレプトスリシン(ST)の生合成メカニズムを解明しました。すなわち、リジンのポリマー化を触媒する新規ペプチド合成酵素を分離・精製・同定し、ε-ポリリジンの生合成メカニズムを解明しました。さらに、β-リジンオリゴマー構造を有する抗生物質ストレプトスリシンの生合成研究においても、新規ペプチド合成酵素を発見し、真核生物に対する毒性が低い新規ST類縁化合物を創製しました。同氏の独創性に富むこれらの研究成果は、ペプチド合成の新しい分子機構を提示するものであり、基礎生化学的に重要であると同時に、新規抗菌薬の開発に繋がる可能性を有するものと高く評価されます。 |