日本学士院会員の選定について
日本学士院は、平成29年12月12日開催の第1114回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の5名を新たに日本学士院会員として選定しました。
(1)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 揖斐 高(いび たかし) | |
現職等 | 成蹊大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 日本文学 | |
主要な学術上の業績 | 揖斐 高氏は、近世漢文学研究の領域において、近世初頭から後期、さらに明治30年代までの長期間における日本漢詩の展開を明快に跡づけ、とくに遊歴の生涯を送った漢詩人柏木如亭の伝記並びに作品の研究を通じてこの抒情詩人の全貌を明らかにしました。同時代の人々に深い影響を与えた頼山陽の詠史詩について新たな見方を提示したことや、菊池五山の『五山堂詩話』が漢詩の大衆化に果たした役割を検証したことも高く評価されます。また、俳諧・和文・小説などの他ジャンルと漢詩文との接点を蕪村・村田春海・上田秋成・大田南畝らの作品に探って、近世日本文学史の叙述をこれまでよりも精緻に深化させることに大きく貢献しました。 【用語解説】
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(2)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 渡辺 浩(わたなべ ひろし) | |
現職等 | 東京大学名誉教授、法政大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 日本政治思想史・アジア政治思想史 | |
主要な学術上の業績 | 渡辺 浩氏は、徳川時代・明治時代の日本の政治思想史研究において、近世社会に生きられた思想の具体的な姿を追求する立場から、従来の思想史を読み直すことを促す衝撃的な業績を次々に挙げてきました。第一に、徳川時代の儒学史の独自な展開とダイナミズムを、朱子学を学んで筆記試験に合格することによって登庸される文人官僚が中心となって支配する明国・清国及び朝鮮国と、原則として世襲の武士身分が支配する徳川日本との異質性を念頭に、綿密な実証作業を通じて説得的に解き明かしたことです。渡辺氏は、さらに、この徳川時代研究を踏まえて、徳川時代末期から明治までの西洋との接触についても、それが儒学の枠組みに深く規定されていたことを様々な角度から解明し、特に、儒学的な信念や思考枠組みを有するが故に、西洋の「文明」を高く評価し、それを受け入れようとする態度が、様々な面で存在したことを明らかにしました。その結果、「明治維新」や「文明開化」について、従来とは異なる解釈の可能性を切り開きました。第二に、日本の思想史の展開を、東アジア各地域の儒学思想などとの比較を試みつつ、捉えていることです。その視野の広さは特徴的で、同氏の研究は、英語の他、中国語・韓国語にも翻訳され、国際的な注目を集めています。 【用語解説】
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(3)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 瀬川信久(せがわ のぶひさ) | |
現職等 | 早稲田大学大学院法務研究科教授、 北海道大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 民法 | |
主要な学術上の業績 | 瀬川信久氏の『不動産附合法の研究』(有斐閣、1981年)は、議論が錯綜していた付合制度について、紛争の事案類型と法概念・法制度の社会的・歴史的背景を、フランス法とドイツ法の対抗関係の中で明らかにし、事案類型と法概念の射程を踏まえた法解釈を目指したものです。その後、瀬川氏は、同様の考察を、金融法、消費者法、不法行為法等の諸問題につき推し進めると同時に、法解釈の基礎となる方法論を検討しました。また、『日本の借地』(有斐閣、1995年)では、かつての借地が第一次都市化・産業化期の地価上昇と金融構造・土地税制に因ること、1970年代以後の借地の減少はその構造の変化に由来することを明らかにし、借地法規制の方向を提示しました。 【用語解説】
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(4)第2部第6分科 | ||
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氏名 | 安元 健(やすもと たけし) | |
現職等 | 一般財団法人日本食品分析センター学術顧問、 東北大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 水産化学 | |
主要な学術上の業績 | 安元 健氏の専門は水産化学であり、特に魚介類の食中毒に関する研究では、毒素の構造決定、定量法の開発、食物連鎖による毒化作用機構の解明など、広範な研究分野で常に世界をリードしてきています。特筆すべき成果の概要は、フグ毒テトロドトキシン類の化学構造の決定と毒を生産する細菌の発見、さらに二枚貝による麻痺性毒、下痢性毒の毒化機構などを明らかにしたことです。また、500年も前から文献に記載されてきたが実態が解明されていなかった南方魚類中毒シガテラについても、安元氏によって原因毒素の構造、毒化機構が初めて明らかにされています。 【用語解説】
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(5)第2部第7分科 | ||
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氏名 | 宮園浩平(みやぞの こうへい) | |
現職等 | 東京大学大学院医学系研究科教授、 東京大学大学院医学系研究科長・医学部長、 スウェーデン・ウプサラ大学客員教授 |
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専攻学科目 | 病理学・腫瘍学 | |
主要な学術上の業績 | 宮園浩平氏は、がんの進展に関与するタンパク質TGF-βの受容体の同定と、細胞内での信号伝達機構に関する研究で世界をリードする成果を挙げました。その結果、TGF-βが肺がんや乳がん、膵臓がんをはじめ多くのがんの発生や進展、とくにがんの浸潤や転移に重要な役割を果たすことが明らかとなりました。またTGF-βと類似した構造を持つタンパク質BMP(骨形成因子)について、受容体や細胞内の信号伝達機構を明らかにしました。TGF-βやBMPは胎生期での個体の発生や、血管、リンパ管、骨、神経など様々な臓器や組織の病気と密接に関わることがわかり、がん研究の分野だけでなく医学の分野の幅広い発展に先導的な役割を果たしました。 【用語解説】
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