日本学士院会員の選定について
日本学士院は、平成30年12月12日開催の第1124回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の9名を新たに日本学士院会員として選定しました。
(1)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 深沢克己(ふかさわ かつみ) | |
現職等 | 京都産業大学文化学部客員教授、東京大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 西洋近世史学 | |
主要な学術上の業績 | 深沢克己氏は、西洋近世史の研究者として、フランスの地中海港マルセイユの営むレヴァント貿易の諸相を、未刊行史料を用いて解明し、生産過程を重視する戦後日本の経済史学に対して、地中海流通史の視点から批判的論点を提示し、西洋近世史研究に新生面を開きました。また多文化・多宗教の交錯する海港都市について類型論的考察を深めると同時に、数々の共同研究をも組織し、宗教的寛容と不寛容、異宗教・異宗派の共存と排除をめぐる比較史を構築し、さらに宗教問題を成立背景としつつ啓蒙思想の伝播・発展に貢献した秘密友愛団、フリーメイソンの歴史研究に先鞭をつけ、国内・海外で多くの成果を公表してきました。 【用語解説】
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(2)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 松浦 純(まつうら じゅん) | |
現職等 | 東京大学名誉教授 | |
専攻学科目 | ドイツ文学・ドイツ思想史 | |
主要な学術上の業績 | 松浦 純氏の主著 Martin Luther: Erfurter Annotationen 1509-1510/11(『マルティン・ルター:エルフルト期注記集 1509-1510/11』)は、宗教改革者ルター最初期の現存全資料の校訂・注解・解説により、ルター研究の基礎を築き直し、国際的に高い評価を得ました。なお、本書に対し、平成25年度恩賜賞・日本学士院賞が授与されています。 【用語解説】
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(3)第1部第1分科 | ||
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氏名 | 伊藤邦武(いとう くにたけ) | |
現職等 | 龍谷大学文学部教授、京都大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 哲学 | |
主要な学術上の業績 | 伊藤邦武氏は、近現代の哲学において重要な潮流であるアメリカ・プラグマティズムの研究から出発し、それと並行して展開されたヨーロッパの哲学、とりわけ19世紀後半から20世紀のフランス認識論の歴史的研究、さらには宇宙論と経済学に関する科学哲学的研究に取り組み、大きな成果を挙げてきました。そこに一貫して通底しているのは、次の2つの問い、すなわち、哲学は科学研究を特徴づける実証性と人間に内在する超越への希求の関係をいかに反省し、どのように両者を統合して体系的思想を構築しようとしたかという問い、次に、人間の認識と行為は不確実性を免れませんが、それにもかかわらず、それについて蓋然的な信念を形成し、合理的に振舞うことができるという事態を哲学がいかに考え、分析してきたかという問いです。これらの問いを、広くまた深い哲学史的探求を通じて考え抜くことによって、伊藤氏は、「思考」と「行為」を決して分離せず、科学的な実証性と形而上学的な思弁性の総合を目指すプラグマティズムの精神を体現し、現代における哲学のあるべき姿を指し示していると言えます。 【用語解説】
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(4)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 根岸 哲(ねぎし あきら) | |
現職等 | 神戸大学社会システムイノベーションセンター 特命教授、 神戸大学名誉教授、甲南大学名誉教授 |
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専攻学科目 | 経済法 | |
主要な学術上の業績 | 根岸 哲氏は、独占禁止法を中心とする経済法を、法律学の一分野として確立させる上で、大きな役割を果たしました。まず、比較的新しい部門である独占禁止法の全体にわたり、経済学の成果を含む広範囲の資料を駆使して、裁判所や行政機関の実務を支えることのできる、緻密な理論体系を構築しました。根岸氏はまた、運輸、金融、電力、通信などの規制産業の分野を綿密に考察し、競争のメリットが活かせるよう、政府規制を緩和する方向の望ましい事業法のあり方を探り、現代にふさわしい内容の経済法を充実させました。さらに同氏は、経済法に隣接する分野、例えば民法、消費者法、知的財産法等についても精力的に考察を加え、これらにも競争法の役割があることを明らかにし、多くの研究者の支持を得ました。 【用語解説】
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(5)第1部第2分科 | ||
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氏名 | 中山信弘(なかやま のぶひろ) | |
現職等 | 東京大学名誉教授、弁護士(西村あさひ |
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専攻学科目 | 知的財産法 | |
主要な学術上の業績 | 中山信弘氏は、知的財産権を、所有権類似の物権的な権利ではなく、産業政策などの政策実現の手段と捉える立場から、技術の進展への知的財産制度の柔軟な対応の必要性を提唱し、その法分野の解釈・立法を主導してきました。とりわけ、昭和60年に著作権法による保護の対象に加えられたコンピュータ・プログラムなどについて、既存の著作物(小説、絵画、音楽等)とは異なる解釈上・立法上の配慮が必要であること、および、デジタル環境では著作者・著作物概念に変容が生ずること等を指摘して、著作権法の解釈および制度の見直しの方向を提示しました。 【用語解説】
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(6)第1部第3分科 | ||
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氏名 | 大塚啓二郎(おおつか けいじろう) | |
現職等 | 神戸大学社会システムイノベーションセンター |
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専攻学科目 | 経済学 | |
主要な学術上の業績 | 大塚啓二郎氏は、開発経済学の研究者として、アジア及びアフリカを中心として独自の現地調査と実証分析を行い、国際的に評価の高い研究業績を挙げるとともに、その成果を新たな開発戦略の構築と実際の開発政策に活かしてきました。 【用語解説】
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(7)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 大隅良典(おおすみ よしのり) | |
現職等 | 東京工業大学科学技術創成研究院特任教授 | |
専攻学科目 | 分子細胞生物学 | |
主要な学術上の業績 | 大隅良典氏は、酵母の液胞の研究を通じて、細胞が飢餓状態に対応するために自己の成分(タンパク質やオルガネラ)を分解するしくみ「オートファジー」に必要なAtgタンパク質群の同定に成功し、それらが、細胞質の一部を隔離・輸送するオートファゴソームの形成のために必須な因子であることを突き止めました。そして、Atgタンパク質の機能の解析を進め、複数の機能単位に分類されることを示し、オートファジーの基本的分子機構を明らかにしました。オートファジーは、飢餓応答のみならず、細胞内の浄化、損傷オルガネラの除去、感染菌やウィルスの分解、免疫、寿命、さらには多くの疾患に関係しており、生命科学や医学の進歩に大きく貢献しています。 【用語解説】
酵母が飢餓状態におかれると、自己の成分を分解し再利用して生き延びる。このために、隔離膜が細胞内成分やオルガネラを取り囲み、オートファゴソームを形成して液胞と融合し、内容物の分解へと進む。大隅氏は、この過程に必要なAtgタンパク質群を発見、機能の研究を行った。 |
(8)第2部第4分科 | ||
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氏名 | 鈴木啓介(すずき けいすけ) | |
現職等 | 東京工業大学理学院教授 | |
専攻学科目 | 有機合成化学 | |
主要な学術上の業績 | 鈴木啓介氏は、生理活性天然有機化合物の全合成、および、基礎的な合成反応の開発研究を行いました。自然界の生理活性化合物の中には、入手源などの制約から稀少なものもあります。その場合、有機合成による供給が期待されますが、複雑な構造を持つ化合物の場合には容易ではありません。鈴木氏は、従来困難であった多くの不斉中心や官能基を持つ化合物の合成を、新たな合成反応の開発や合成経路の設計により実現してきました。反応開発では高反応性化学種を活用し、斬新で有用な分子構築法や立体制御法の開発につなげた一方、合成研究では糖質やテルペン、ポリケチドなどの生合成の異なる構造が複合化した標的に関し、数々の全合成を実現しました。 【用語解説】
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(9)第2部第6分科 | ||
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氏名 | 丸山利輔(まるやま としすけ) | |
現職等 | 石川県参与(県立大学担当)、 京都大学名誉教授 | |
専攻学科目 | 水環境工学 | |
主要な学術上の業績 | 自然界では「水」は、主に太陽エネルギーによって、地球上を氷、水、水蒸気と形を変化させながら循環しています。この水循環は地上での物質循環の主役を担っていますが、丸山利輔氏は灌漑排水学の立場から、その主要過程である「蒸発散」と「流出機構」について河川流域を単位とする研究を行いました。前者については、気象観測から得られる温度•湿度の測定値とエネルギーの保存則を連立させて蒸発散量を推定する「逆解析方式」を開発し、後者については、広域にわたる耕地の灌漑における用•排水システムの解明を可能にした「昇順方式」と「複合タンクモデル」を開発しました。これらは、現在、主要河川の流域における水資源の利用と灌漑排水計画の立案に広く利用されています。 【用語解説】
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