日本学士院

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日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について

日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第15回(平成30年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。(年齢・現職は平成31年1月15日現在)

氏名 大内 正己 (おおうち まさみ) 大内 正己
生年月

昭和51年1月(42歳)

現職 東京大学宇宙線研究所准教授

専門分野

銀河天文学
研究課題 ライマン・アルファ放射体を用いた初期宇宙の観測研究
授賞理由

  宇宙初期の天体は宇宙膨張によりその発する光は大きく赤方に偏移しています。大内正己氏は大きく赤方偏移した水素のライマン・アルファ輝線で輝く天体(LAE)に着目し、この輝線を効率的に検出するための狭帯域フィルターを用いて、すばる望遠鏡で探査を行いました。大内氏の観測は、誕生後10億年の宇宙ですでに銀河団などの大構造が存在していること、予想される物質の分布と異なる銀河の不均質分布があったことを示しています。同氏はさらに、誕生から8億年頃の宇宙に「ヒミコ」と名付けた非常に巨大なLAEとなる銀河を発見しています。このような特異な銀河が銀河形成初期にあったことは驚くべきことで、学界に大きなインパクトを与えました。
今、LAEの探査により作成された初期宇宙の地図は、構造形成・銀河形成を理解する基本的で重要なデータとなっています。次世代広視野観測装置を用いた国際的研究の指導者となっている同氏は、今後も初期宇宙銀河研究の発展に大きく貢献するものと期待されます。

氏名 合田 圭介 (ごうだ けいすけ) 合田 圭介
生年月 昭和49年8月(44歳)
現職 東京大学大学院理学系研究科教授
専門分野 光科学、光量子科学、バイオフォトニクス
研究課題 超高速イメージング法・分光法の開発とその基礎科学・産業・医療への応用
授賞理由

 光を用いるイメージングは基礎科学から生物・医学までの広い分野で活躍しています。現在のイメージングではセンサーとしてCCDなどが広く用いられていますが、感度を下げれば1Mfps程度のフレームレートまで達成することができますが、読み出し速度に限界があるため、高感度と高速度を同時に要求される広範囲なダイナミック現象のイメージングは困難でした。合田圭介氏は、従来のイメージング法の限界を超える空間的かつ時間的により高分解能を可能にするレーザー光を駆使した独自の分光法を考案し、超高速イメージング法を世界に先駆けて開発しました。この方法を用いて、レーザー光照射による物体表面のバースト、固体表面振動のリアルタイムイメージングなどの物理現象から、血中のがん細胞の短時間検査法などの医療分野までの多岐にわたるダイナミックな高速現象に関わるイメージングを展開し、基礎科学から応用まで多岐にわたるユニークな研究に貢献しています。

氏名 小島 武仁 (こじま ふひと) 小島 武仁
生年月 昭和54年8月(39歳)
現職 スタンフォード大学経済学部准教授
専門分野 ゲーム理論、マッチング理論、マーケットデザイン
研究課題

マッチングあるいは市場設計(マーケットデザイン)理論の現実への応用可能性の拡張

授賞理由

 小島武仁氏は「マーケットデザイン」という経済理論の分野において、国際的に研究をリードし、特に制限付きマッチング問題の第一人者として、広く知られています。マーケットデザインとは、ゲーム理論や実験経済学の手法を用いて、効率性の高い経済制度を設計するための理論分野です。その中で、マッチング理論とは、公立学校の選択、研修医の配置、ワクチンの配布、震災などの際の仮設住宅の割り当てなど、社会的あるいは倫理的な理由で価格を付けるのが望ましくない財やサービスの配分の仕組みを考える理論です。
マッチング問題は、21世紀初頭の時点では理論的には解決済みだと考えられていました。小島氏は、既存の理論の仮定が現実と合わないことを見据え、その仮定を修正し、改めて現実に応用力の高い理論を構築しました。同氏の研究は理論的に精緻であり、かつ、理論と現実の問題の橋渡しをする研究として国内外で高く評価されています。さらに今後、マッチング理論を超えて、経済理論の他の分野においても革新的な研究が期待されています。

氏名 武部 貴則 (たけべ たかのり) 武部 貴則
生年月 昭和61年12月(32歳)
現職

東京医科歯科大学統合研究機構教授
シンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長
シンシナティ小児病院消化器部門・発生生物学部門准教授
横浜市立大学先端医科学研究センター特別教授
横浜市立大学コミュニケーション・デザイン・センター長
T-CiRA Jointプログラム研究責任者

専門分野 幹細胞生物学、再生医学、コミュニケーション・デザイン学
研究課題 多能性幹細胞を用いたヒト器官原基による固形臓器の発生・再生研究
授賞理由

 武部貴則氏は、医師としての経験をきっかけに移植臓器不足の根本解決を目指し、臓器移植に代わる治療法の開発という挑戦的かつ重要なテーマに挑んでいます。多能性幹細胞から移植治療に用いるための「細胞」ではなく「器官」を創り出すための革新的な培養技術を開発し、その技術を用いてヒトiPS細胞からヒト肝臓原基(肝芽)の創出に成功しました。現在は、ヒト肝芽を用いた移植治療の実現を目指して、複数企業との産学連携のもと卓越したリーダーシップを発揮しています。また、この技術は腸管、肺、腎臓、心臓、軟骨、脳など、様々な臓器へも応用可能であることが示されており、今後、再生医療分野への更なる貢献が期待できます。このように武部氏は、器官原基移植(Organ Bud)という新たな治療概念の実現に向け着実に研究を展開しており、幹細胞研究において世界をリードする研究者であると言えます。

氏名 竹村 俊彦 (たけむら としひこ) 竹村 俊彦
生年月 昭和49年7月(44歳)
現職

九州大学応用力学研究所教授

専門分野 気候変動、大気環境
研究課題 エアロゾル気候モデルの開発とその気候変動および黄砂・PM2.5分布予測などの大気環境研究への適用
授賞理由

 竹村俊彦氏は、主要なエアロゾル(硫酸塩、黒色炭素、有機物、土壌粒子、海塩粒子)の発生、移流、拡散、化学反応、湿性・乾性沈着、重力沈降などの移動過程を勘案し、水平および垂直方向の濃度変化を計算して統合的に主要エアロゾルをシミュレーションする方法(SPRINTARS)を開発しました。竹村氏は、SPRINTARSに全球気候モデルの大気放射過程や雲、降水情報を加え、エアロゾルによる気候現象の変化を予測し、気候に及ぼすエアロゾルの影響を評価しました。その結果、エアロゾルは地上気温上昇を約40%抑制していますが、環境改善によりエアロゾルが減少すると、温暖化現象が顕著になるものと予測しました。同氏のモデルはさらに改良され、PM2.5の週間予測をホームページで公開しており、広く利用されています。エアロゾルは硫酸塩、海塩粒子など反応性のある物質を含んでいることから、今後、同氏のモデルが進化して、エアロゾルが環境や農業生産に及ぼす影響の予測が可能となるものと期待されます。

氏名 安岡 義文 (やすおか よしふみ) 安岡 義文
生年月

昭和55年3月(38歳)

現職

日本学術振興会特別研究員-SPD

専門分野 古代地中海美術史
研究課題 古代エジプトの柱の編年史ならびに建築哲学の研究
授賞理由

 安岡義文氏がハイデルベルク大学に提出した博士論文に基づく著書Untersuchungen zu den Altägyptischen Säulen als Spiegel der Architekturphilosophie der Ägypter(Hützel: Backe Verlag, 2016)は、膨大な数の柱の調査と碑文等の多彩な資料に基づく古代エジプトの柱に関する研究です。
安岡氏はこの研究で古代エジプトの柱の様式と編年、柱やその装飾の象徴的意味、柱の設計法や施工法、さらに柱に反映された古代エジプト人の宗教観や歴史観などを包括的に論じて、研究者が今後拠ることのできる確固とした土台を構築しました。また、この研究は古代エジプトの建築がギリシア・ローマの建築に与えた影響を確認する際の信頼できる基礎資料ともなっています。
フィールドワークと文献研究の優れた能力を兼ね備えた安岡氏によって、今後、建築を中心とする古代地中海文明研究が大きく発展することが期待されます。